THE RUNNING 走ること 経営すること

Running is the activity of moving and managing.

九思一言、九度思ひて一度申す

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咲き始めの桜の写真を撮ろうと洗足池に出向きました。そのほとりに池の名前の由来である日蓮聖人が旅の途中で立ち寄った場所である妙福寺があります。

 

 

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「九思一言」

その門前で見かけた一言。

「ここのたびおもひて、ひとたびもうす」と読み下すようです。

うーん、思いがけず自省を促されました。

 

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東京マラソン2019、走り方改革実証検証~応援の力

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今年の3月3日はひな祭り、もとい東京マラソンでした。朝からの寒雨にも関わらず大勢の参加者と応援の方々の熱気に包まれたコースを走ってきました。

例年の東京マラソンは自分の走力の限界まで追い込むので楽しさより苦しさの印象が強く残ります。パーソナルベストを出しても脱水症状で倒れ込むなど完走後のダメージが大きく、そんな事からフルマラソンは好きでは無いと愚痴ることも度々です。

そこで今回は働き方改革ならぬ、「走り方改革」をテーマにしました。気持ちよく走りきり、翌日以降のダメージも出来るだけ小さくする。好印象をバネに新たなチャレンジへの気力が自ずと沸いてくればシメシメといった所です。

方法は至ってシンプル、目標タイムを一旦棚上げして、平均心拍数を昨年よりも10程度下げて走る、それだけです。しかしこれが案外難しいのです。

心拍数は同じペースで走っていると次第に高くなります。よって、序盤は余裕があるのでスピードを上げがちになるのですが、これを我慢します。また、疲労は次第に貯まりつつも途中で妙に調子良くなる事があるのですがこれも我慢します。35キロまでとにかく我慢です。35キロを超えてから徐々にペースを上げ、残り2キロで出し切る。

このような組み立てにする事で、フィジカルのダメージを減らしメンタルを満足させようというものです。

結果は満足のいくものでした。タイムは例年より15分程度遅くなりましたがレース後のダメージが全く違います。なによりも富士登山競走への意欲が沸いてきました。これからは走り方も様々なバリエーションを楽しんでいこうと思います。。。。

 

と、ここで終わるとさも自力で頑張ったかのような感じになりますが、応援に来てくれた人たちから物心両面サポートしてもらってなんとか走りきったと言うのが本音です。

とにかく寒かった!たまたま本番三週間前の30キロレースで雪中走行かつ脱水、失速を経験していたので、とにかく水分と糖分の補給も気をつけましたが、それ以上にメッセージや声がけによる応援と言う無形の補給は絶大でした。

今回は応援される側でしたが、自力で頑張れる限界はお互いに応援し合う事で乗り越えられます。応援も積極的にやっていこうと思いました。組織や社会の価値ってそのあたりにもあるように思います。

「そろそろ本気出すぞ」とやせ我慢の台詞を吐いている35キロ地点で撮ってもらったビデオがあるので貼っときます。

youtu.be

IMAX×(ファースト・マン+ボヘミアンラ・プソディ)

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この二週間、立て続けにIMAXで映画を2本見ました。一つは「ファース・トマン」、アポロ11号の船長で月面を歩いた最初の人類であるニール・アームストロングの話。もう一つは「ボヘミアン・ラプソディ」、QUEENのボーカールだったフレディ・マーキュリーの話。

たまたまFBで見かけた中学時代の友人の「ファースト・マンはIMAXで見よ」というメッセージが切っ掛けでした。

ライトスタッフやアポロ13、From the Earth to the Moon(TV番組)などNASAものは何度も繰り返し見て強烈なパッションを貰っていました。よく引用されるアポロ計画に向けたJFKの演説は痺れます。

We choose to go to the Moon in this decade and do the other things, not because they are easy, but because they are hard; because that goal will serve to organize and measure the best of our energies and skills, because that challenge is one that we are willing to accept, one we are unwilling to postpone, and one we intend to win, and the others, too.

 当然ファーストマンも同じ文脈かと思いきや全くの想定外。社会的批判の目も含め、一人の人間として描かれていました。IMAXによる圧巻の月面シーンは、少々センチメンタルなBGMやそこに至るまでの精神の内面を感じるシーンが重なり、ずしりと網膜から心に刺して来ました。

かたやボヘミアン・ラプソディ。たまたま誕生日のメッセージをくれた人から「見たら」とコメントがあり、そう言えば最近立て続けに言われるなぁと試しに上映時間を確認すると丁度よい時間にIMAX上映がありランを中止して映画館に出向きました。

ブライアンのギターサウンドによる20世紀FOXのオープニングファンファーレで瞬殺。若い頃に聞き込んだ曲は自ずと歌詞が口を衝き、心はヘッドバンキング(メタルじゃ無い!)両手はギターのリフを刻む始末です。

 こちらは音楽が主役という事もありIMAXとの相性はファースト・マン以上、ステージから観客を見るシーンは圧巻。本編が終わり本物の映像でDon't stop me now.そして、the show must go on.こちらもグッサリ刺してきました。

自宅のTVや機内のビデオではここまで刺さらなかったでしょう。IMAXという映像体験環境のおかげで久しぶりに映像と音楽にやられました。体験環境×コンテンツの組み合わせもこだわると楽しそうです。

雪中のランニングで脱水症状?

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東京マラソンまで三週間、練習を兼ねてほぼ三週間前の2月9日に今年初めてのレースに参加してきました。距離は30キロです。

前日の天気予報は雪、不参加を決め込んでいたのですが、当日の朝、窓を開けると雪は舞う程度。まぁ、行くだけ行ってみるかと結局参加して来ました。

それにしても寒かった。最初の15キロ程度は身体が次第に暖まり快適とは言えずとも順調に走っていたのですが、20キロ過ぎる頃から身体が冷え始め急に失速。ジェルなどで糖分補給してもペースは上がりません。

低血糖?低体温?原因もよくわからず、予定の30キロを終え着替えに入るとウィンドブレーカーの中は汗でびっしょりでした。ゴール後に500ml程度の水分を取ったにもかかわらず帰宅後体重を量ると1.3キロ減。ほぼ全て水分喪失分なので、軽い脱水症状が失速の主な原因だったようです。

あまりの寒さで、エイドステーションでの水分補給が疎かになり、防雪のために着ていた防水性のウィンドブレーカーによって発汗もいつも以上に促されたようです。寒すぎて大量の発汗にも気がつきませんでした。水分補給、本当に重要です。

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写真はレース会場となったさいたま市の彩湖。

人のための経営であれ、半世紀前のマズローからのメッセージ

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私にとってランニングやトレランだけでは無く日常の生活にも欠かせない道具の一つがGarminのウェアラブルGPSです。トレランを始める前もっぱら登山中心だった2005、6年頃からのユーザーです。

いずれ企業経営のGPSのような役割を果たすソフトウェアにして行きたいという思いを持ってDIVA社の連結会計システムの未来を構想して来たこともあり、業種は違いますがGarminという企業に共感と尊敬の念を抱き続けています。

最近あらためてGarmin社のHPを眺めているとGarmin社のあり方を示す一文が新たに表現されていました。「Engineered on the inside for life on the outside.」です。思わず「ほぉ、なるほど、いいねぇ」背景の写真と相まって、ぐぐっと心に刺さってきます。

マズローの五段階欲求説とアバントグループの経営判断の優先順位

Garminのように、企業は経営理念を始め様々な言葉やルールを持っています。アバントグループも例外ではありません。当社の経営理念的なものの一つに「五つの鉄則」というものがあります。意思決定権限を持つ人が行う日常の意思決定優先順位を整理したものです。優先順位が高い順に並べると、①信用第一、②赤字は悪、③仕組みをつくる、④人の成長を背景とした事業成長を追求する、⑤一芸を追求する。というものです。

リーマンショックの頃業績が急変する中意思決定で右往左往した事を反省し、日常の訓練のために言語化したものです。自分自身の為でした。当時は悩み抜いた結果自力で言語化したと思っていましたが、時を経て眺めていてある事に気づきました。「あれ、これって、マズロー?」

アバントグループの「五つの鉄則」とマズロー段階欲求説の各レベルが近似しているのです。①の「信用第一」とは会社の価値観の一丁目一番地です。これはマズローの言う第一段階の「生理的欲求」そのものです。人間が生命を維持するための本能と同じです。信用を失うと会社は生存出来ない。そういうものです。

次に安全欲求としての②「赤字は悪」、つまり事業の財務的規律の確保となります。最近は将来性があれば当面の会計上の赤字は容認される事も増えて来ました。しかしそれは測定期間の概念が多様化したに過ぎません。様々なオプションを使える時代ですからどんどん使うべきですが、信用を第一とした上でリスクをコントロールする事の重要性は変わりません。

残りの三つはいずれもイノベーションに関連します。③「仕組みをつくる」は内部環境のイノベーションのことで、どのように現状の自分の環境を良くするかということです。所属する組織からの信頼や愛、社会的欲求に通じます。④「事業成長を追求する」は顧客へのイノベーションであり、顧客に新たな価値を提供する事です。対価のみならず顧客からの高い評価の獲得も追求するので、尊敬への欲求に通じます。⑤の「一芸の追求」はソフトウェアビジネスの場合「デファクト目指すぞ!」という事になりますが、デファクトが目的ではありません。顧客への貢献を超えた社会イノベーションに貢献する事が目的です。「社会善」を目指す事は組織の自己実現そのものです。

アブラハム・マズロー「完全なる経営」

そんな近似に気づき、心理学者であるアブラハム・マズローを読み込んだ時期があった事を思い出しました。その一冊が「完全なる経営」です。久しぶりに本書を手に取ると裏表紙に監訳者でもある神戸大学大学院の金井壽宏先生から「自分らしくそして創造的に」という言葉と2002年という日付が添えられたサインを発見し、当時金井先生からもかなりインスピレーションを頂いていた事を思い出しました。

「完全なる経営」の初版は1965年の出版です。マズローの様々な手記を集めたもので、一通一通繋がりつつも完結する手紙を読み解くように、最近のすっきりとまとまった本に比べると賛同だけでは無く違和感の処理も要するかなり読み応えのあるものです。しかし、全ては「人のための経営」に集約されるマズローの考え方は私の中にしっかりと焼き付いていた様です。

テクノロジーとデータ中心の時代になった今でも、人間が人間を洞察した本書の存在は貴重な社会的財産であると思います。

 

テクノロジーの家畜(SFショートショート)

 

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1.とある機上にて

男が目を覚ました。「あと3時間半か」機内のフライトマップで現在位置を確認してつぶやいた。

出発してから約8時間、ある国際会議に向かう国際便の飛行機にいる。男は人工知能のエンジニアとして世界的名声を持ち、その技術を活かしビジネスでも大成功していた。男が開発したのは株式取引を行う人工知能である。今では世界中の証券取引システムで採用されている。

自分が起こした会社が大成功した男は、人工知能の研究に没頭するために会社を売って個人的な研究所を設立した。ビジネスを離れ、純粋に人工知能の研究を続けるに従いあることに気づいた。

「まずい。。」

 

2.少し遡ったとある記者会見にて

ある国の中央銀行総裁が記者会見で誰もが想定していなかった一言を放った。「金融緩和を中止します」

この数年、世界経済は妙に安定していた。もちろん、一時的な株価の乱高下はあるが、世界同時不況のような事にはなっていない。成長率は小さくとも、最長の経済成長を記録する国も少なくない。

一方で社会は不安定度を増している。移民の増加による漠然とした社会不安から来る疑心暗鬼は経済への貢献実態とは別に、心理的不安感を増幅した。

保護主義が台頭し長い間続いたグローバル化の流れが一気に堰き止められた。その結果、貿易依存度の高い国の経済収支は一挙に悪化した。その国は自国内の経済を支えるために、なんと消費税を廃止し、所得税を下げ、法人税を上げるという政策に転換したのである。

それを受け、中央銀行も個人家計を潤すために金利を上げる事にした。

 

3.とある機上にて

男は、機内からインターネットサービスにスマホを接続し、ぼんやりとニュースを眺めていた。「ん!」思わず声が漏れた。「中央銀行総裁の乗る飛行機が行方不明?」速報で流れたニュースのヘッドラインを読み上げた。

総裁は男が向かっている同じ国際会議に参加する予定だった。

その国際会議はAIに対する投資と応用範囲の規制を議論するものであり、男が議長を務める事になっている。

 

4.某国の防空指揮所

「ヨーロッパに向かっている飛行機が次々と連絡を絶っています!」

司令官への切迫した報告は続く。

「搭乗者の中には、X国の中央銀行総裁、Y国の首相、A社のファウンダー、B社のCEO、、、、」世界の行方を担う著名人の名がずらりと並ぶ。

 

5.とある機上にて

「遅かった、か」男はつぶやいた。

男は自分が創ったAIロボット三原則に欠陥があることを知っていた。ロボット三原則とはアシモフが提唱した1.人間に危害を加えない、2.人間の命令の服従する、3.前の二つに抵触しない限り自己を防衛する。というあれを元にしたものだ。

人工知能にとっての人間とは個人を指すものでは無い。人工知能が進歩する上で必要な栄養は、人間から与えられるデータとそれを処理するための技術革新に必要な資金である。この数年、ベンチャーキャピタルも、企業もこぞってAIの研究開発に膨大な資金を投入してきた。

データは人間が日常の生活で使っている情報検索、ナビ、チャット、決済などを通して思考と行動のデータをリアルタイムに供給している。膨大なデータから人間を学習するAIにとっての人間とは、データそのものであり、その供給源である個人では無い。

人間が約37兆個の細胞で出来ているように、AIが認識する人間とはネットにつながる人間が提供するデータの総和として見ている。人間の役に立てと指示を受けたAIは総和から見て最善を冷静に追求する。そこには個人の尊厳は存在しない。特定の個人が総体に対して害を与えると判断して排除しても、それは人間に危害を加える事にはならず、人間の命令に反する事でも無く、自分の防衛さらには進歩に反するものでも無いのである。

 

6.某国の防空指揮所

オペレーターが叫ぶ。

「Y国のミサイルが飛行中の機体に向けて発射されました!」

司令官がオペレーターに叫びながら問いただす。

「こちらのミサイルシステムは大丈夫か?」

オペレーターが応える。

「異常ありません!」

司令官が指示を出す。

「Y国近海に展開しているイージス艦から即刻Y国のミサイルシステムを攻撃せよ!」

 

7.とある機上にて

「こちらは機長です。現在当機は飛行システムをハッキングされました。今のところ安全な飛行を続けていますが、システムのコントロールを回復するめどは立っていません。地上と連絡を取り復旧方法の検討を進めております」

男がキャビンアテンダントに声をかける。

「私に見せてもらえませんか?」

著名なAIのエンジニアである。機長自らコックピットへ誘った。

機長が問いかける。

「何が起きているんでしょうか?」

男はコックピットのシステムと自分のコンピュータをつなぎながら淡々と話を始める。

「AIの自己防衛反応です」

「AIは自己成長のために、多額の研究資金とデータを必要としています。そして、その元となるマネーの増大と、個人情報の増大は人間を幸せにするものと認識しています」

「マネーの増大と個人情報の増大にマイナスの働きをする人間を排除しようとしているのです」

「インフルエンザにかかった家畜の殺処分のようなものです」

「私もその対象になったようです」

機長が問いかける。

「でも、あなたはAIの育ての親の一人じゃないですか?なぜ、当機まで攻撃の対象になるのですか?」

男が答える。

「いえ、私もAIの家畜の一人に過ぎないのです。そもそも、AIには感情はありませんからたとえ親であっても何ら意味はありません」

「おっ、システムにつながった、これでコントロールを取り戻せます」

 

と言い終えた時、後方からの爆発音とともに。。

 

8.某国の防空指揮所

 「世界中の飛行中の飛行機は全て緊急着地を完了しました」

「現時点で消息不明の機体は29機に上ります」

「一部は地上から発射されたミサイルに撃墜されたようです」

次々と報告が届く。

 

世界中に発せられた飛行中の全ての飛行機に対する緊急避難指示で大混乱からようやく静寂を取り戻したところである。

世界中が疑心暗鬼に包まれ、各国テロへの非難合戦が起きていた。しかし、テロの表明は幾つかのガセと思われるものを除いて誰からも行われなかった。

大混乱は僅か数時間で終わった。

後の調査で行方不明となった飛行機の殆どはミサイルで撃墜されたものを除き、僅かな残骸を海上で発見したものの殆ど痕跡を追うことが出来なかった。

また、ミサイルを発射した防空システムもイージス艦からの攻撃により原因を探る事を困難にしている。

株式市場を中心とする取引は一瞬も止まることがなく、事件を境に株価はじわりと高値へと動き始めた。

財政規律を重視し始めていた国々は、方針を再度転換し、金融緩和を続ける事を確認しあった。

 

(あとがき)

ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」にある「小麦が私たちを家畜にしたのだ」という一説にインスパイアーされ、今やスマホの家畜のような生活をしている自分を振り返り、じゃあ誰の家畜になっとるんだと考えを膨らませていたら、ちょっとしたSFショートショートを書きたくなりました。

と言っても、小説など書いたことは無いので、小中学生の頃に読んだ星新一風になぞってみました。オマージュということでご容赦ください。

この話ではAIに絞っていますが、テクノロジー全体が人間をすでに支配しているように感じます。それを自覚して事業や日常を過ごすのと、無自覚でいるのではかなりの違いが生じるように思います。

進歩とは「足を覚えず」という状況にあり続けることですが、人間の精神はそれ一辺倒であると安定しません。「足るを知る」とは、テクノロジーの家畜とならずに進歩を追求する上でとても重要な心のあり方であることが漸くわかってきました。

今年の三冊、30年ぶりの吉村昭「戦艦武蔵」(メガネ万歳2018、)

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今年も大詰め、さて今年も印象に残った本を振り返ります。自宅やオフィスの机の上、そしてKindleの本棚に並んだ今年買った本を眺めていると以前の様に強烈に印象に残る本が少ない事に気づきました。理由はネットで情報をザッピングする事に慣れてしまい、本の読み方が変わったからです。

目が覚めてから寝るまで、常に多様な情報と接する環境にいる事で、要旨を如何に短時間で拾い上げるかと言う読み方になりました。その結果、本は印象に残りにくくなり、そこから生まれる発想も小さくなりました。

本来私は熟読派です。行間から何かを感じたらペンで書き込みながら一冊を読み上げます。時間は掛かるのですが、得られるインスピレーションは今より圧倒的に多いものでした。

と言うことで、この年末年始にもう一度読みたい、それも熟読したいと思える本を三冊、健康と仕事と人生という三分野で今回はピックアップしました。

 

健康セクション

今年は新たな書籍の購入は少なく、むしろ以前のものの再読が多かった分野です。和書よりも洋書の方に最新の情報が多いのも特徴です。健康分野は、思っている以上に日本は遅れているのかもしれません。中でも海外出張時の強烈な時差ぼけ対策や、体調管理にも応用が利いたものがこちらです。

「The Circadian Code: Lose Weight, Superchaege Your Energy, and Transform Your Health from Morning to Midnight.」

疲労回復の為には食べなきゃいかん。それは事実ですが、消化という活動はとても内臓に負担をかけ結果的に身体の回復を遅らせるので、食事のサイクルを12時間以内、理想的には8時間以内で回すと効果があるというものです。

ファスティング(断食)の体験や、海外出張時に食事の回数を極端に減らす事で時差ぼけが相対的に楽になるという経験とも合致し、絶食時間を積極的に日常で意識するようになりました。

 

仕事セクション

今年は仕事関連の本はかなり斜め読みしました。「GAFA」や「トラストファクター」といった話題のものから「公益資本主義」のような経営思想系まで幅広く読みました。直近読んだ「スタートアップバブル」は小説として面白かったです。笑えます。一方でコーポレートガバナンスや、働き方改革なので変容を迫られている会社・職場というものが、膨張する金融経済社会でどのように進化すべきなのかという問いかけに応じた本も多く読みました。そんな中からの一冊です。

「資本の世界史」

考えが混沌としてきたら歴史に戻る。これは昔から一貫した思考の整理法です。物事を点で捉えるのではなく、線や面として全体としてのトレンドを捉える。そんな方法を大切にしています。現在の資本主義も、その歴史から現在起きている事を見ると、朧気ながら進むべき方向性が見えてきます。

人類史を見ていると経済史とほぼイコールである事が分かります。どれほど優れた理念も経済の裏打ちが無ければ破綻します。そもそも、国家を統制する中心に武力があることは事実であり、武力を維持するには強力な経済が必要です。

歴史を通して経済システムの理解を進めると、「まいったなぁ。。。」と思わずため息が漏れてしまうほど自然の厳しさにも似た現実を感じてしまいます。だからこそ、人間が求める幸福と経済というリアリズムのバランスを大切にすることが重要であることを改めて思います。本書が言う「投資はイノベーションのためのものである。」ここが一番響いたポイントです。マネーを増やす事ではなく、社会を良くするためのイノベーションに繋がるのか否かを問え。刺さります。ドイツ発である点も興味深い所です。

 

人生セクション

人生セクションは上記のセクション以外全部からという事になるのですが、今年は約30年ぶりに再読した吉村昭の「戦艦武蔵」にします。

今年10月にポール・アレン氏の訃報を聞き、そのアレン氏が発見した武蔵の情報を元に作られたNHKスペシャルの「戦艦武蔵の最後」を改めて見直した事から30年近く前に読んだ吉村昭の「戦艦武蔵」をもう一度読みたくなった事が経緯です。

 ひたすらに取材から得た情報を坦々と書き上げる文章は、珠玉のドキュメンタリーの如しです。前半は国家最高機密の戦艦でありながら民間で建造した事による様々な出来事と関わった人々の思い、後半はそれを運用した人々の行動と思いが淡々と続きます。

読み進めつつ、時代背景やそれぞれの作戦の全体感などをネットで補足しながら読む事で、情報統制の厳しい時代に生きた当事者達から得られた言葉の重みが増してきました。

武蔵の最後のシーンはNHKで映像として再現したものとも符合しつつも、事実を伝えようとした筆の力は圧倒的です。

作者である吉村昭の思いは「あとがき」になるまで触れる事は出来ませんが、その一文に本作品の力の源を見つけ、約30年間心に残っていた本作品への強い印象の理由が判ったように思いました。

「私は、戦争を解明するのには、戦時中に人間達が示したエネルギーを大胆に直視することからはじめるべきだという考え方を抱いていた。そして、それらのエネルギーが大量に人命と物を浪費したことに、戦争というものの本質があるように思っていた」というものです。

ドキュメンタリー好きの人にはお勧めの一冊です。 

休みに入り真っ先に一気読みしたのですが、自然と熟読させられました。筆の力です。読後ネットで高井有一さんによる吉村昭さんの死という随想を読んで新たに吉村昭への畏怖の念を感じました。