THE RUNNING 走ること 経営すること

Running is the activity of moving and managing.

今年の三冊、やっぱり紙の本はいい。(メガネ万歳2019)

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今年は紙の本に回帰しました。

今読みたい一冊を鞄に入れ、移動時間などでパラパラとめくりながら思いにふけったり、本に書き込みしたり。やはり愉しみとしての「読書」は紙に限ります。

紙で読んだ書籍の中で今年印象に残った三冊をご紹介します。

 

1.「神は詳細に宿る」養老孟司

養老先生の最新刊。

最初に読んだ養老本が「唯脳論」、独特の養老節に魅了され、その時以来の養老ファンです。

本書はこの「唯脳論」から30年の節目で、養老節のエッセンスを語り直したものです。思考に強い影響を受けた一人である事を再認識しました。

「生きそびれないようにすること」の一節、台湾で昆虫採集をして大はしゃぎしている中老年先生達の話では思わずニヤリ。ウルマンの青春の詩とも通じる精神の若さと人生の愉しみ方に大賛同です。

「神は細部(詳細)に宿る」と言う有名な言葉好きにはたまりません。

心のメンテナンスに効いた一冊です。

 

2.「大読書日記」鹿島茂

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新聞の書評を切っ掛けに読み始めた本です。

中身は「書評」!!

何事にもその筋のプロという存在がいますが、まさに本のプロ。いいえ、尊敬を込めてオタクという表現の方がシックリくる程の迫力です。

日常では決して触れる事の無い世界の一端に次々と触れることが出来ます。ネットサーフィンならぬ、ブックサーフィンです。本書で触れている書籍を何冊も購入してしまいましたがほぼ積読、本棚の肥やしになっています。

今年の5月から読み始め、いまだ読了していませんが寝る前の愉しみになりました。

 

3.「金融に未来はあるか」ジョン・ケイ

今年も身近なフロンティアとして、ファイナンス世界についてリアル、バーチャルともに探検を進めました。間接的な探索手段の一つである本の中で最も読み応えがあったものが「金融に未来はあるか」です。

原題の「Other People's Money」という金融における基本姿勢を軸としつつも、様々な考察がちりばめられており、パラグラフ単位で思考に刺激を突っ込んで来ます。

逆選抜とモラルハザードの節にある「イングランドにおける変死や事故死のリスクは13世紀からほぼ一定である。」という話は、現代社会における安全対策の根本思想に一石を投じます。

共同体組織(ゲマインシャフト)と機能性組織(ゲゼルシャフト)、それぞれから生じた異なるファイナンス哲学の話は、金融業界だけでなくこれからの会社のあり方を考えるヒントになります。

つながり過ぎて複雑になりすぎた社会は、さらなる機能の細分化と短期的思考のベースとなる流動性の向上を加速します。それだけに、すべての機能性組織は共同体組織としての意識、つまり「時間軸」を持った社会最適化のための道徳の徹底が欠かせません。

「資本効率の向上」の一点突破で経済の活性化を目指す日本のコーポレートガバナンス改革、資本効率の重要性自体に異論はないのですが、一点突破故の危うさを感じています。その危うさの背景と今後の方向性を考える一助となりました。

 

***

本はかさばる、持ち運びだけでは無く保存にも場所を取る。それでも、じっくり紙の本を読む事は愉しい。結局、この「愉しい」というスタイルが全てなのかもしれません。

そうだ 本屋、行こう。

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・本屋とアマゾン

かつて大型書店通いは大量かつ広範な情報との接点でした。休日になるといくつかの気に入った書店に出向き、特にテーマを決めずに最上階から体系化された本棚を流し、その時々の意識、無意識との接点を探していました。

接点が見つかる度にしばらく立ち読みし、気に入ったものを数冊まとめ買いをして帰ります。大筋は立ち読みで済ませているので熟読するためのストックとして持ち帰ります。そういった本は寝室に並べ、休日や就寝前にランダムに読んでいました。

そんな習慣は、老眼とアマゾンの影響で激変し、この数年は殆ど書店に出向くこともなくなりました。

 

・本に書いていない情報

一方で、本よりも異なる世界の人との直接の接点を広げるようにしてきました。直接の会話や体験を通した学習機会では、相手のプロファイル、発言の背景、集まった集団の反応など五感をフル活用した議事録には残らない非言語的情報を咀嚼して自分なりの解釈へと昇華していきます。

このようなプロセスは最低でも小一時間、場合によっては数日、数ヶ月かかる事もあります。そこから得られた新たな知見は本からは得られない貴重な情報となる場合が多いです。

異世界ゆえ、事後に補完的な情報が得られるほど昇華の質も良くなるのでインターネットは大変便利なツールです。併せて他者とのブレストやディスカッションといったインタラクティブな手法を取り入れる事はより有効です。

このような方法は、嘗ての本屋との接し方と近いものがあります。五感を通して多様なジャンルの本とブレストのように接する。想像力は必要ですが、沢山の人と擬似的な対話が出来ます。

 

・行動に火をつける刺激と適切な行動とするための情報

本来、情報という刺激を取り入れる目的は、人間が本来持っているパッション、つまり何かをやりたいという本能に方向付けを与え行動に火をつける事と、一度動き始めた行動を適切な方向へとガイドする事にあります。

前者では、これまで自分の知らない新たな刺激、情報が有効です。後者は進んでいく方向に役立つモノゴトを深掘りするための情報が有効でしょう。いずれも自ら持つパッションを活かすための主体的な情報との関わり方です。

上記に加え、脳をリカバリーするための回復食的な情報も重要です。普段ストレスにさらされて未来について考える事に疲れているほど脳はコンフォートゾーンを求めます。脳の疲労も深刻な問題なので、その回復は重要です。瞑想や、好きな音楽を聞く事は有効です。ただし、情報との関わり方は主体的でないと危険です。

 

・ネットだけだと好奇心が萎える

本屋に話を戻します。

かつての総合書店通いは主体的な情報との接点として大変役立つものでした。書店という物理的な建物の中で、求めている本にたどり着くまでに沢山の寄り道が出来るからです。

それと比較すると効率的な販売活動と密接不可分の現在のネット情報は寄り道がしにくいと感じます。物理的な一覧性の低さにより、思いがけない新たな出会いは決して多くありません。

自分の過去の関心事をベースに繰り返し提供されるニュース、書籍はむしろ好奇心を萎えさせる事もあります。一方で、経験・体験を重視しすぎると体力的な限界にぶち当たり、いわゆるオーバートレーニング状態になってしまいます。いずれも健全なパッションを維持するには十分ではありません。

さて、どうしたものだろう。ぼんやりと機上の窓からの風景を眺めて浮かんできたのが次の一言。

 

「そうだ 本屋、行こう!」

 

生きた経営情報とするために

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今年も師走。冬の便りも届き始めました。(写真は鳳凰三山)

 

今回はステークホルダーとの対話の意義についてです。

経営者にとって、”経営情報”は意志決定のためだけでは無く、様々なステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションツール(言語)として使えないと無意味です。経営とは組織を通して成果をつくる活動であり、その成果は様々なステークホルダーと共有されるものだからです。

ゆえに、アカウンタビリティ(説明責任)は、一方的な説明ではなく、双方向の対話を前提としています。

”経営情報”をステークホルダーと会話するための「言語」と捉えると、会計情報はその語彙の一部です。株価やファイナンスに関する情報も同様です。会話するステークホルダーの幅を広げるほど語彙の幅が広がります。しかし、明治に西洋文化を取り込む中で生まれた沢山の新語が本当の日本語になるまでには相応の時間がかかったように、言葉の裏にある意味や意義を自分たちのものとするのは簡単ではありません。

・・・

ステークホルダーの一角である機関投資家との対話では、実際に使うかは別としても、ROEやROICと言った資本生産性に関する単語は重要です。いずれも十分に大衆化した単語ですが、振り返って自分にとって生きた言葉であるかと言えば怪しいものです。

機関投資家が資本生産性の視点から投資判断をしている事は理解していても、資本生産性指標を日常使い、つまりステークホルダー全体に対して意義のある事とするまでには至っていません。使い方を間違えると特定の利害に偏った経営を招きかねません。

そんな、暗記しただけの外国語のような言葉を生きたものとするには、ネイティブスピーカーとの対話を通して言葉のコンテキストを理解し、自分自身も日常で使っていく事が欠かせません。語学と一緒ですね。

ステークホルダーとの対話力を磨き続けることも経営者の重要な仕事である。会社内部から海外IRへと経験の幅を広げるにつれ、対話の意義と価値をそのように実感するようになりました。

 

さて、当ブログは今回で5年目に入ります。5年は続けるという事で始めたブログ、最終ラウンドもよろしくお願いします。

Prepare, Concentrate and Enjoy!

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負荷をかけた後のリカバリー時間が十分に確保出来ないので、最近はトレイルはショート、ロードはハーフと短めのレースに参加しています。そもそも健康第一を目的としたランニングですが、レースとなると練習を含めツイツイ追い込んでしまい、その後のリカバリーに苦労する事が絶えません。

そこで、距離は短く、回数は減らさないようにレースの組み立てを修正しました。これがかなり具合が良く、翌日以降に大きく疲れを残さず、ある程度の走力を維持が出来、かつ日常の活力も養えています。本来の目的に軌道修正出来ました。

加えて「ランを楽しむ」ように心のスタンスを変更しています。以前はレース中ギリギリで走る事が多く、楽しむ余裕など全くないランでした。ゴールは格別ですし、振り返るとまたやりたいと思うのですがレース中は苦行で追い込んでしまい、その後ダメージも大きいものでした。

楽しむ工夫を幾つかやってみたところ、一番効いたのは応援やスタッフの方々に声がけする事でした。自分の心拍数やペースばかりに集中するのではなく、周囲を見てこちらからも声をかける。そんな事で一気にレースが楽しくなりました。

ランニングに限った話ではありませんが、レースや重要な目標がある場合、そこに向けた適切な準備、そして行動への集中は当然の事ですが、それに加えてプロセスを楽しむ工夫や取組みを積極的に行う事で人生は豊かになる、そんな価値観が数十年を経て一回転して戻ってきました。

Prepare, Concentrate and Enjoy!

正しく儲けるために

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「正しく儲ける」先日、日清紡ホールディングスの村上社長とお会いした時に強く印象に残った一言です。外部の「企業価値の創造」に関するを議論で論点が今一つ曖昧な事に問題意識を感じていた時でした。

村上さんの言葉は、「会社の未来を創るにはビジョンを語るだけでは無く、そこに向けた成果を積み上げる事が欠かせない。その成果とは具体的な儲けである。だからと言って儲ければなにをしてもよいと言うものではない、『正しく儲ける』事が大事である。」という文脈の一部です。

事業活動の成果を「儲け」であると言い切った上で「正しく」を制約条件として課しています。企業価値創造の件も「儲け」と「正しさ」で整理できると感じました。

ところで、最近ESGやSDG'sなど企業活動と社会の持続性を関連付ける指標を投資判断に取り入れる機関投資家が増えています。Finance as a force for good. 投資家自身が、単なる儲けではなく、社会を良くするための投資行動を強めて行こうという潮流が強まっています。企業に求められる正しさの範囲は広がる一方です。

企業が持続的に社会貢献を行うためには従来以上に儲かるビジネスモデルを創造する必然がある。そんな事を考えながら村上さんのお話を振り返ってみると、「正しくあるために儲ける」という公器としての在り方をおっしゃっていたように思えてきました。

正しさとは、正解が与えられるものでははく、自ら考え意味づけるものだと思います。事業活動を価値のある活動にしたいと企業理念やミッション、ビジョンというものを毎日のように点検し、正しさを日々考え続けています。

CEOの人事権を社外取締役に委ねて良いのか?今回の会社法改正について

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2019年10月18日の閣議で上場企業ならびに大企業、有価証券報告書提出会社に社外取締役設置の義務化を含む会社法改正案が決定されたと報道にありました。2015年のコーポレートガバナンス・コードの適用以降その導入は9割を超え、形式上の影響は軽微かもしれませんが、その目指す姿を考えるとかなり重い話と感じています。

これまでの商法・会社法の改正の歴史はシンプルに言うと米国式経営の導入を目指したものであり、実効性のある社外取締役の導入に向けた試行錯誤であったとの見方をその歴史に詳しい方に伺ったことがあります。

本件をその文脈で理解すると、1950年以来、約70年をかけた一連の商法、会社法改正を経て、ついに本丸に達したという事になります。

それにしても、ずいぶんと時間と配慮を重ねて来たものだとしみじみ思います。社外取締役に限っても2014年の会社法改正による監査等委員会設置会社制度の導入で社外取締役の実数を増やす環境を整え、コーポレートガバナンス・コードでは2名以上の独立社外取締役の選任を原則とするソフト・ローと位置づける事で反発を避け、実質的に十分な社外取締役の普及が進んでからの法改正です。

組織ガバナンスの肝は「人事権」です。社外取締役の義務化の目的は「経営と執行の分離」にあり、その本質は経営者(一般的にはCEOや社長)と呼ばれているヒトの人事権を上司でも無い社外のヒトが握る事で経営者の暴走と怠惰を防ごうと言うものです。経営者にとってはこれまで握っていた人事権を奪われる訳ですからその抵抗感を配慮すると当然なのでしょう。

今回の法改正のみならず、昨年のコーポレートガバナンス・コードの改定でCEOの選解任に対する取締役会の役割を明記するなど外堀はどんどん埋められています。それでも実際かつ適切にCEOに対する人事権を行使できる社外取締役を持つ取締役会が育つまでには相当の時間を要するでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの改定議論では社外取締役1/3以上という議論もあったようですが、次の形式的ハードルは社外取締役だけで代表取締役の解職決議が出来る過半数越えと考えています。とは言え、そもそも米国式は本当に機能しているのだろうか、いろいろ疑問もありますが、参考までに社内のブレスト(ブレイン・ストーミング)用に使っているデータが幾つかあるので転載します。

 

 ①東証一部上場企業における社外取締役の比率等の推移

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東証一部上場企業、社外取締役数の推移

②米国S&P500企業における社外取締役等の推移

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S&P500、社外取締役数の推移

③日米欧主要国企業社外取締役比率(2018年)

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日米欧主要国別社外役員比率(2018年)(出典:Spencer Stuate Board Index 2018)

④日米欧企業の資本効率推移

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日米欧企業のROA・ROE推移(出典:経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」、2019年)

CEOの人事権を社外取締役に委ねる事について当事者視点では「ありだ」と考えています。しかし、心からそう思えるまでには時間を要しました。

現在当社では、社外取締役比率50%の体制を引いています。人選においては自分に対する直言のみならず、場合によっては解任を突きつけられるだけの方にお願いしようと慎重かつ段階的に環境を整えてきました。

しかし、実際にそのような厳しい取締役会では正論とは裏腹に感情的には忸怩たる思いをする事も少なからず経験して来ました。それでも、振り返ってみると自分では気がつかない暴走と怠惰を防ぐ機会となっていたと実感しています。

そんな理と情がむき身でぶつかり合う経験を通し、次第に人間としての敬意というか、信頼のようなものを背景とするチームワークを現在の取締役会に感じるようになってきました。そのような経験を通しての「ありだ」です。逆に、信頼関係の無い社外取締役に人事権を握られたとするならとてもCEO業務に専念する事は出来ません。

外部と内部の間で本当の信頼関係を築くだけではなく、社外取締役自体適切な流動性をもって権限が固定化されないようにする必要もあるでしょう。本当に簡単ではありません。それでも、社外取締役が機能するボードを手に入れる事は持続発展を目指す上場企業にとって価値がある、今ではそう確信しています。

走っている最中に何かヒラメキますか?

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今朝は二年ぶり二度目の檜原ヒルクライムレースに参加。先頭集団、当社自転車部部長のガチ出走を見届け遙か後方よりスタート。直後からガンガンに抜かれ約1時間半後のゴールポジションはそのさらに後方、なれど至福のひとときとなりました。

 

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今回参加した自転車部メンバー、ロードバイク女子が表彰台に立ちました。

 

そんなレースの帰りに「走っている最中に何かヒラメクか?」という話題になりました。個人的な答えは「イイエ」、とは言えいろんな事を思い巡らしながら走っているのは事実です。

時間の長いレースほど、その時に気にしている事や悩んでいる事、時には昔の出来事、後悔など、まるで夢の様に脈絡無く様々な思考が駆け巡ります。それでも、走り終わってみると心や思考がスッキリしている事が多いのも事実です。良い睡眠がとれた朝のようです。

では、どんな時にヒラメクのか?

私の場合は朝起きてからしばらくの時間や長時間走った後の時間が多いようです。夢を見るのは脳が情報を整理しているからと言う話がありますが、ヒラメキを得るには起きている時にやる論理的思考とは別の無意識の情報整理が必要なのでしょう。

身体の面では負荷をかけるランですが、脳の情報整理に関しては睡眠に近い効果があるのかもしれません。

さて、来週は毎年恒例の「ハセツネ」、秋の奥多摩を百鬼夜行ならぬ、約二千五百人のランナーと夜行です。日頃の情報過多を思いっきりデトックスして来ます。

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