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CEOの人事権を社外取締役に委ねて良いのか?今回の会社法改正について

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2019年10月18日の閣議で上場企業ならびに大企業、有価証券報告書提出会社に社外取締役設置の義務化を含む会社法改正案が決定されたと報道にありました。2015年のコーポレートガバナンス・コードの適用以降その導入は9割を超え、形式上の影響は軽微かもしれませんが、その目指す姿を考えるとかなり重い話と感じています。

これまでの商法・会社法の改正の歴史はシンプルに言うと米国式経営の導入を目指したものであり、実効性のある社外取締役の導入に向けた試行錯誤であったとの見方をその歴史に詳しい方に伺ったことがあります。

本件をその文脈で理解すると、1950年以来、約70年をかけた一連の商法、会社法改正を経て、ついに本丸に達したという事になります。

それにしても、ずいぶんと時間と配慮を重ねて来たものだとしみじみ思います。社外取締役に限っても2014年の会社法改正による監査等委員会設置会社制度の導入で社外取締役の実数を増やす環境を整え、コーポレートガバナンス・コードでは2名以上の独立社外取締役の選任を原則とするソフト・ローと位置づける事で反発を避け、実質的に十分な社外取締役の普及が進んでからの法改正です。

組織ガバナンスの肝は「人事権」です。社外取締役の義務化の目的は「経営と執行の分離」にあり、その本質は経営者(一般的にはCEOや社長)と呼ばれているヒトの人事権を上司でも無い社外のヒトが握る事で経営者の暴走と怠惰を防ごうと言うものです。経営者にとってはこれまで握っていた人事権を奪われる訳ですからその抵抗感を配慮すると当然なのでしょう。

今回の法改正のみならず、昨年のコーポレートガバナンス・コードの改定でCEOの選解任に対する取締役会の役割を明記するなど外堀はどんどん埋められています。それでも実際かつ適切にCEOに対する人事権を行使できる社外取締役を持つ取締役会が育つまでには相当の時間を要するでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの改定議論では社外取締役1/3以上という議論もあったようですが、次の形式的ハードルは社外取締役だけで代表取締役の解職決議が出来る過半数越えと考えています。とは言え、そもそも米国式は本当に機能しているのだろうか、いろいろ疑問もありますが、参考までに社内のブレスト(ブレイン・ストーミング)用に使っているデータが幾つかあるので転載します。

 

 ①東証一部上場企業における社外取締役の比率等の推移

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東証一部上場企業、社外取締役数の推移

②米国S&P500企業における社外取締役等の推移

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S&P500、社外取締役数の推移

③日米欧主要国企業社外取締役比率(2018年)

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日米欧主要国別社外役員比率(2018年)(出典:Spencer Stuate Board Index 2018)

④日米欧企業の資本効率推移

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日米欧企業のROA・ROE推移(出典:経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」、2019年)

CEOの人事権を社外取締役に委ねる事について当事者視点では「ありだ」と考えています。しかし、心からそう思えるまでには時間を要しました。

現在当社では、社外取締役比率50%の体制を引いています。人選においては自分に対する直言のみならず、場合によっては解任を突きつけられるだけの方にお願いしようと慎重かつ段階的に環境を整えてきました。

しかし、実際にそのような厳しい取締役会では正論とは裏腹に感情的には忸怩たる思いをする事も少なからず経験して来ました。それでも、振り返ってみると自分では気がつかない暴走と怠惰を防ぐ機会となっていたと実感しています。

そんな理と情がむき身でぶつかり合う経験を通し、次第に人間としての敬意というか、信頼のようなものを背景とするチームワークを現在の取締役会に感じるようになってきました。そのような経験を通しての「ありだ」です。逆に、信頼関係の無い社外取締役に人事権を握られたとするならとてもCEO業務に専念する事は出来ません。

外部と内部の間で本当の信頼関係を築くだけではなく、社外取締役自体適切な流動性をもって権限が固定化されないようにする必要もあるでしょう。本当に簡単ではありません。それでも、社外取締役が機能するボードを手に入れる事は持続発展を目指す上場企業にとって価値がある、今ではそう確信しています。