THE RUNNING 走ること 経営すること

Running is the activity of moving and managing.

正しく儲けるために

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「正しく儲ける」先日、日清紡ホールディングスの村上社長とお会いした時に強く印象に残った一言です。外部の「企業価値の創造」に関するを議論で論点が今一つ曖昧な事に問題意識を感じていた時でした。

村上さんの言葉は、「会社の未来を創るにはビジョンを語るだけでは無く、そこに向けた成果を積み上げる事が欠かせない。その成果とは具体的な儲けである。だからと言って儲ければなにをしてもよいと言うものではない、『正しく儲ける』事が大事である。」という文脈の一部です。

事業活動の成果を「儲け」であると言い切った上で「正しく」を制約条件として課しています。企業価値創造の件も「儲け」と「正しさ」で整理できると感じました。

ところで、最近ESGやSDG'sなど企業活動と社会の持続性を関連付ける指標を投資判断に取り入れる機関投資家が増えています。Finance as a force for good. 投資家自身が、単なる儲けではなく、社会を良くするための投資行動を強めて行こうという潮流が強まっています。企業に求められる正しさの範囲は広がる一方です。

企業が持続的に社会貢献を行うためには従来以上に儲かるビジネスモデルを創造する必然がある。そんな事を考えながら村上さんのお話を振り返ってみると、「正しくあるために儲ける」という公器としての在り方をおっしゃっていたように思えてきました。

正しさとは、正解が与えられるものでははく、自ら考え意味づけるものだと思います。事業活動を価値のある活動にしたいと企業理念やミッション、ビジョンというものを毎日のように点検し、正しさを日々考え続けています。

CEOの人事権を社外取締役に委ねて良いのか?今回の会社法改正について

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2019年10月18日の閣議で上場企業ならびに大企業、有価証券報告書提出会社に社外取締役設置の義務化を含む会社法改正案が決定されたと報道にありました。2015年のコーポレートガバナンス・コードの適用以降その導入は9割を超え、形式上の影響は軽微かもしれませんが、その目指す姿を考えるとかなり重い話と感じています。

これまでの商法・会社法の改正の歴史はシンプルに言うと米国式経営の導入を目指したものであり、実効性のある社外取締役の導入に向けた試行錯誤であったとの見方をその歴史に詳しい方に伺ったことがあります。

本件をその文脈で理解すると、1950年以来、約70年をかけた一連の商法、会社法改正を経て、ついに本丸に達したという事になります。

それにしても、ずいぶんと時間と配慮を重ねて来たものだとしみじみ思います。社外取締役に限っても2014年の会社法改正による監査等委員会設置会社制度の導入で社外取締役の実数を増やす環境を整え、コーポレートガバナンス・コードでは2名以上の独立社外取締役の選任を原則とするソフト・ローと位置づける事で反発を避け、実質的に十分な社外取締役の普及が進んでからの法改正です。

組織ガバナンスの肝は「人事権」です。社外取締役の義務化の目的は「経営と執行の分離」にあり、その本質は経営者(一般的にはCEOや社長)と呼ばれているヒトの人事権を上司でも無い社外のヒトが握る事で経営者の暴走と怠惰を防ごうと言うものです。経営者にとってはこれまで握っていた人事権を奪われる訳ですからその抵抗感を配慮すると当然なのでしょう。

今回の法改正のみならず、昨年のコーポレートガバナンス・コードの改定でCEOの選解任に対する取締役会の役割を明記するなど外堀はどんどん埋められています。それでも実際かつ適切にCEOに対する人事権を行使できる社外取締役を持つ取締役会が育つまでには相当の時間を要するでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの改定議論では社外取締役1/3以上という議論もあったようですが、次の形式的ハードルは社外取締役だけで代表取締役の解職決議が出来る過半数越えと考えています。とは言え、そもそも米国式は本当に機能しているのだろうか、いろいろ疑問もありますが、参考までに社内のブレスト(ブレイン・ストーミング)用に使っているデータが幾つかあるので転載します。

 

 ①東証一部上場企業における社外取締役の比率等の推移

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東証一部上場企業、社外取締役数の推移

②米国S&P500企業における社外取締役等の推移

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S&P500、社外取締役数の推移

③日米欧主要国企業社外取締役比率(2018年)

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日米欧主要国別社外役員比率(2018年)(出典:Spencer Stuate Board Index 2018)

④日米欧企業の資本効率推移

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日米欧企業のROA・ROE推移(出典:経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」、2019年)

CEOの人事権を社外取締役に委ねる事について当事者視点では「ありだ」と考えています。しかし、心からそう思えるまでには時間を要しました。

現在当社では、社外取締役比率50%の体制を引いています。人選においては自分に対する直言のみならず、場合によっては解任を突きつけられるだけの方にお願いしようと慎重かつ段階的に環境を整えてきました。

しかし、実際にそのような厳しい取締役会では正論とは裏腹に感情的には忸怩たる思いをする事も少なからず経験して来ました。それでも、振り返ってみると自分では気がつかない暴走と怠惰を防ぐ機会となっていたと実感しています。

そんな理と情がむき身でぶつかり合う経験を通し、次第に人間としての敬意というか、信頼のようなものを背景とするチームワークを現在の取締役会に感じるようになってきました。そのような経験を通しての「ありだ」です。逆に、信頼関係の無い社外取締役に人事権を握られたとするならとてもCEO業務に専念する事は出来ません。

外部と内部の間で本当の信頼関係を築くだけではなく、社外取締役自体適切な流動性をもって権限が固定化されないようにする必要もあるでしょう。本当に簡単ではありません。それでも、社外取締役が機能するボードを手に入れる事は持続発展を目指す上場企業にとって価値がある、今ではそう確信しています。

走っている最中に何かヒラメキますか?

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今朝は二年ぶり二度目の檜原ヒルクライムレースに参加。先頭集団、当社自転車部部長のガチ出走を見届け遙か後方よりスタート。直後からガンガンに抜かれ約1時間半後のゴールポジションはそのさらに後方、なれど至福のひとときとなりました。

 

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今回参加した自転車部メンバー、ロードバイク女子が表彰台に立ちました。

 

そんなレースの帰りに「走っている最中に何かヒラメクか?」という話題になりました。個人的な答えは「イイエ」、とは言えいろんな事を思い巡らしながら走っているのは事実です。

時間の長いレースほど、その時に気にしている事や悩んでいる事、時には昔の出来事、後悔など、まるで夢の様に脈絡無く様々な思考が駆け巡ります。それでも、走り終わってみると心や思考がスッキリしている事が多いのも事実です。良い睡眠がとれた朝のようです。

では、どんな時にヒラメクのか?

私の場合は朝起きてからしばらくの時間や長時間走った後の時間が多いようです。夢を見るのは脳が情報を整理しているからと言う話がありますが、ヒラメキを得るには起きている時にやる論理的思考とは別の無意識の情報整理が必要なのでしょう。

身体の面では負荷をかけるランですが、脳の情報整理に関しては睡眠に近い効果があるのかもしれません。

さて、来週は毎年恒例の「ハセツネ」、秋の奥多摩を百鬼夜行ならぬ、約二千五百人のランナーと夜行です。日頃の情報過多を思いっきりデトックスして来ます。

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情報生産性を向上するために超えるべき三つの壁

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昨日は渡良瀬ハーフマラソン、フラットなコースを三周。天気予報を裏切る秋晴れのファンランでした。しばらく走れていない時など、レースへの参加は軌道修正の良い機会となります。

 

さて、今回は情報生産性の話。

当社の顧問でもある首都大学東京の松田智恵子先生曰く、「経営とは情報生産性の向上を追求するものである。」実体験からも経営実務はまさに情報生産性向上への挑戦であると言う実感があります。

情報生産性は最終的に企業価値で評価すべきと捉えています。労働生産性は人間を基礎としている事から人間の物理的制約によって向上限界が存在します。情報生産性も同様に、企業を基礎としている以上限界もしくは適正水準が存在します。ファンドが企業に投資をする際の指標の一つであるEV/EBITDA((時価総額+純有利子負債)/(税引き前利益+支払利息+減価償却費))は情報生産性を計る一つのKPIです。

 

そんな情報生産性ですが、これまでの経験からその向上には三つの突破すべき壁があると考えています。

 

①人間の認知能力突破への壁(グループ経営)

会社の成長で100人の壁や10億の壁、30億の壁など多少の差はあれど大凡50人~300人、10億~30億程度で足踏みをする例は少なくありません。理由は様々ですが情報生産性の観点から捉えると、経営者の情報処理能力、言い換えると認知能力が壁の原因です。多少の個人差はあれど、人間の認知能力に大きな差はありません。経営者が市場、顧客、社員などの総合的情報を一括して把握できる状況は高いパフォーマンスを発揮する事も出来ますが早晩個人の限界にぶつかります。壁を突破するためにグリッドコンピューティングの如く経営の意思決定単位の細分化が欠かせません。しかし、様々な理由で経営単位を分解する事は容易ではありません。ここに一つ目の壁が存在します。

 

②外部情報取り込みへの壁(フィナンシャルベンチマーク)

二つ目は、自社の成長を外部視点から見直す事が出来るかという点です。VCやPEの視点は企業の持つ経営資源や事業の立地を棚卸しして、企業価値の伸びしろを発見して行くものです。優れたPEは良質な外部情報を大量に保有し活用する事で投資対象企業の潜在的価値を見つけ出します。一方の企業は、自社が持つ顧客情報や事業のオペレーション情報を大量に持っているのでどうしても自社内の情報をベースに年度予算や中期計画を策定する傾向が強いのですが、同業や国内だけでは無く様々な業種や会社の企業価値(財務パフォーマンスではない)と相対比較する事ですでに起きている未来を成長を取り込む事が出来るようになります。では、外部情報を手に入れれば活用出来るかと言えば簡単ではありません。本業の社会貢献視点を要するので単純なファイナンス視点とも異なります。これが二つ目の壁です。

 

③未踏情報アクセスへの壁(ストラテジックM&A)

最後は公知では無い情報にアクセス出来るかという点です。ネットや情報ツール等で様々な情報にアクセスする事が可能になりました。しかし、他の企業や人がアクセス出来る情報だけでは情報生産性の向上にそれほど寄与しません。情報生産性の価値は情報の不平等で創られます。この不平等は知っているか知らないかと言う話ではありません。皆なんとなく知っているが、詳しくは知らないラストワンマイルに集中しています。VC等のインナーサークルもその一つです。とは言え事業会社の場合本業たる事業成長のための投資が目的です。単純にインナーサークルに入っていても使いこなす事は困難です。結局の所自ら事業価値の創造シナリオを描き、その加速のために必要な協力関係を築く、投資はその手段として活用すると言う事になります。その上で未踏情報へアクセスするのですから難易度は相当なものです。

 

以上三点、情報生産性の向上において超えるべき三つの壁は私にとっては「経営情報の大衆化」という当社のミッションを通して、お客様への貢献という視点でも真剣に解決したい課題となっています。

 

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無借金経営、今昔物語

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実質無借金経営と言う言葉は、会社の安定性を説明するときの常套句です。返済余力を持ち、自分の食い扶持が自分で稼げている事を言います。とは言え、事業成長において設備投資など大きな資金を必要とする場合は銀行借入れや市場から資本として調達する事が出来ます。将来的にキャッシュとして回収可能であれば前借りして事業を成長させる。当然の事です。

資金調達を借入れだけで行う場合はそのリスクをPL(損益計算書)的に体感する事が容易です。借金の総額と返済プラン、金利条件など調達段階で返済リスクが明確であり、借手がそのリスクを体感する事が出来るからです。

資本調達も経営者にとっては本来借金と同じです。十数年前には資本は返さなくて良いリスクマネーだと言う話をちらほら聞いた事もありましたが、世界的低金利もあり現在は銀行借入れよりも利率の高い資金調達方法であると言う認識が定着しています。

しかし、資本調達に対する借金は銀行借入のように感覚的に分かり易いものではありません。そこで幾つかの工夫をして借金的な感覚を養ってきました。

一つは、金利に相当する配当の考え方です。アバントではDOE(純資産配当率)を採用しています。預かっている株主資本に対する金利的な考え方で捉える事が出来ます。

分解式としてROE×配当性向となりますが、これだとPL的な事業経営感覚には今ひとつ響いてきません。

そこで株主資本コストを勘案したDOEを政策金利のような最低金利と考えると返済に必要な絶対額を意識する事が出来ます。その額を含めて黒字経営を徹底することが出来れば自ずと純資産も増加して翌年以降の配当額も増加します。これによって、意識しづらい資本調達コストをPL主体の事業経営に織り込むことが出来ます。

もう一つが元本返済に相応するのれんに対する回収です。

個人的に純資産と時価総額のギャップは経営者にとって将来必ずキャッシュとして回収すべき借金と認識しています。

時価総額とのギャップ以外にもM&Aの内容によってはBS(貸借対照表)上の自己資金をのれんに大きく置き換える事もあるでしょう。M&Aの場合純然たる会社の稼ぐ力だけでなく市場で取引される価格が強く影響するのでくせ者です。

のれん相当部分の現金回収は10年にも20年にも及ぶ場合があるので一人の経営者でその回収が出来るものではありません。それでも不確実な未来に対して可能な限り将来キャッシュフローの最大化を通してのれん回収の段取りをつける事は返済義務の履行と同様です。毎年の事業成果や戦略の進捗は総合的な返済義務の履行のようなものと捉える事が出来ます。

そんな視点により将来に無理な借金を残さない事で事業の継続性を高める事が出来ると考えています。また、企業価値が将来キャッシュフローの総和であると考えると、事業の健全な存続期間が長いほど企業価値は上がります。

そしてなによりも、途中で破綻するとそこで大きく損や害を被る人が出ます。ゆえに、社会同様、企業も単なる成長の追求ではなく、持続発展を第一とした上での成長の追求が経営の最優先事項と考えてきました。当社の経営理念である「100年企業の創造」はそんな思いを背景としています。

成長に対するリスク取ることを強く求められる上場企業として、持続発展を第一としつつも取るべきリスクをとって行く資本市場に対する実質無借金経営という発想を大切にしています。

公器の時代

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先日、米国証券取引委員会(SEC)のヘスター・ピアースさんとのコーポレートガバナンスに関する意見交換会に参加して来ました。学生時代から「公器」としての企業経営の在り方に強い関心があり、起業の機会を得てからも腐心を重ねて来たテーマだからです。 

公器としての在り方は、渋沢栄一の「論語とそろばん」という考え方を参考に、論語については中国の古典や経営者の書いた本、歴史や戦史を題材にした組織論、そして経営の先輩を始めとする人との対話から学びました。論語の本質は昔も今も変わりません。

そろばんは実践環境から学ぶしかありませんでした。経済上のリアルな生存競争でありひたすら環境適応を繰り返す必要があるからです。その一方で自分の経験に視座が偏る不安が常に付きまとい、手探りの状況が続きました。

そんな私にとって、コーポレートガバナンス・コードと関連レポートは上場企業に対してそろばん視点でガバナンスの目的をはっきりさせた点でかなり有効であると感じています。一点難があるとすれば、企業のフェーズ、規模、事業モデルなどが配慮されておらず、包括的すぎる点でしょう。

とは言え、ステークホルダーとの対話や経営理念などとも照らし合わせ、内容の是非を含め補正するのは経営側の役割なので大きな問題ではありません。

さてピアースさんとの話ですが、冒頭で渋沢栄一に触れつつ、金融は社会の発展のためにあると言及したことに驚きました。

であればと、私自身の公器を創るためのコーポレートガバナンスに対する試行錯誤の実体験から、SECがベンチャー企業に対するガバナンス教育についてどのように考えているか質問をしてみました。

ピアースさんからは、いくつかの取り組みについてお話いただいたのですが、最も印象に残ったのは、話の内容よりも、最後に少し考え込む仕草をしながらつけ加えた一言、「interesting...」の空気感でした。

私にとっては、グローバルに「新たな公器」の時代が来ている。そう直観した瞬間となりました。

サステナビリティという論語と経済成長というそろばんのバランスがより問われる時代へとコーポレートガバナンスの潮流は確かなものとなっています。

仕事バカにもたまらない、「高畑勲展」

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お盆の季節。帰省などで普段忘れがちな自分の原風景を再確認する方も多いのではないでしょうか。私の原風景は古河。渡良瀬遊水池の景色もその一つです。(写真)

話は変わりますが、国立近代美術館の高畑勲展(2019年7月2日~10月6日:東京国立近代美術館)に行って来ました。切っ掛けは身内からの「行って来たよ」のメッセージ。

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高畑さんと言えば個人的には「火垂るの墓」「平成狸合戦ぽんぽこ」「となりの山田君」など、宮崎さんのジブリ作品とは異なる、映像と比べメッセージの強さのギャップが強すぎる作品を少し煙たく感じていました。

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そんな高畑さんの仕事と作品を集めた本展は、表現者としての挑戦とその取り組みへの半端ない情熱と知恵と初志を知る機会となり、煙たさが畏敬へと変わりました。

中でも若き時代の野心的作品である「太陽の王子 ホルスの大冒険」制作にあたり、スタッフと共有したテンション・チャートなどのプロジェクト資料はプロジェクトワークツールとして見ても革新的です。

ジブリ好きだけでなく、仕事バカの方にもお勧めです。

さて、予習は十分、「かぐや姫の物語」、見よう。