THE RUNNING 走ること 経営すること

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経営者を育てる社外取締役という仕事

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コーポレートガバナンスコードは使える!

先日、自社の取締役会に対する自己評価調査票を提出しました。2015年6月に日本の市場に上場するすべての企業を対象として導入されたコーポレートガバナンスコードという上場企業の行動規範に則って取締役会が機能しているかをチェックするためのものです。

私は大学生のときには会社を「社会の公器」であるべきだと考えてきました。もちろん、自然発生的に生まれたものではなく身近な人や環境から影響を受け次第に醸成されたものでした。よって、その実現手段についてはどうしても試行錯誤となります。

今回のコーポレートガバナンスコードは特定の利害関係者に偏ることなく長期的な事業発展を促すことを会社のあるべき姿と位置づけているので、私にとってはようやく上場企業が社会の公器であるためのガバナンス上の一般概念が整理され「これは使える」と感じています。

経営者の変化をただすコーチ陣としての取締役会

私が考える公器としての発展を目指す上で最大のリスクとは人間の変化です。ここでいう変化とは経営者が暴走もしくは怠惰に陥るという意味での変化です。

現在の当社の取締役構成は社内2名、社外2名です。そして常勤監査役1名、非常勤監査役2名、さらに法的権限はありませんが、社外取締役に準ずる役割としての顧問1名と合計8名を取締役会参加メンバーとして構成しています。

 自分以外の全員が経営者としての私にとってのコーチです。つねに直言が飛び交い、承認事項や報告事項に対して見直のみならず却下されることも少なくありません。

このような現在の体制は誰かから要請されてできたものではありません。私自身の暴走と怠惰に対する恐怖感から必然的につくられたものです。 

現役経営者が自身をふり返る機会としての社外取締役という立場

社外取締役の意義に対する認識は、過去の自分自身の社外取締役経験が元になっています。一つは東証一部のアルプス技研(4641)、もう一社はマザーズ上場のカヤック(3904)です。いずれも業種業態が異なるなか、貴重な経験機会をいただきたくさんのことを学ぶことができました。

 それまでは自社の経営しか経験したことがありません。社外取締役という立場にかなり戸惑いました。行き着いたのは自分の経営者としての経験を通して感じた違和感を可能な限り直言していくことでした。その上で必ず「発言する」ことを決めて臨みました。

 ところが現役の経営者の方々を前に社外役員として自由に発言するのは難しいものでした。「まぁ、首になってもいい立場だから、遠慮しなくていいだろう」と清水の舞台から飛び降りるつもりで発言することもたびたびでした。

そのような経験を通し、外部の人間が直言しやすい環境をつくることは思った以上に簡単ではないことを痛感しました。以後、自社の取締役会をはじめとした経営会議にて自由闊達な発言が本当にできているのか、従来以上に注意するようになりました。

シン・ケツゴウの可能性を高める機会

また、自社のガバナンス状況を客観視する機会とは別に、新たな事業機会を涵養する場としても役立つものでした。自社とは異なるビジネスモデルやコーポレートストーリーをはじめさまざまな未経験領域に当事者意識をもって触れることで新たなビジネスチャンスや発想を磨くこともできます。

相手方にとっても異なる経営経験を持つ人間が発する違和感や発言は少なからずなんらかのインパクトを与えていることも実感できました。通常の事業提携や資本提携よりもゆるやかなものではありますが、新たな発想や可能性を生み出す環境としてなかなか貴重な機会でした。

そのような経験から、上場企業の現役経営者が他社の取締役を引き受けることは事業の再構成や新結合を産み出すための施策としてかなり有効であると思います。異なる業界同士であれば双方の経営資源を結びつけ新結合による新たなビジネスが生まれる可能性も高まります。同じような業種であれば経営統合などが円滑に進むかも知れません。

いずれにせよ、現役経営者が自社の経営をおろそかにしない範囲で異なる企業の経営にも触れることは自社の経営にとってプラスとなることは間違いありません。

経営者の成長にもコーチと客観視できる環境が役立つ

経営に限らずなにごとも自己流ではいずれ限界に達します。経験上、その限界を超えるために役だったのは、優良なコーチの存在と自分を客観視できる環境です。よく経営者は孤独だという言葉を耳にすることがありますが、本当に孤独であってはいけないように思います。常に苦言を呈し高い目標設定を与えてくれるコーチに恵まれ、一方で自分自身の経営を客観的にふり返ることのできる経営者としての研鑽環境を持つことができれば孤独に取り組む以上によい会社つくりに貢献できると確信しています。

自社のことに一生懸命になるあまりに自己流で独善的な経営となっておかしくならないよう、これからも暴走と怠惰を許さない厳しいコーチとともに切磋琢磨したいと考えています。