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実学2.0 インタンジブルな投資への憂鬱

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これまでバイブルのように幾度となく読み返して来た本はいくつもありますが、稲盛和夫さんの「実学」もその一つです。経営における会計の重要性とともに、会計を換骨奪胎し自分達の価値創造の道具とせよということを事例を通して書かれています。

実学が最初に出版されてから約20年が経ちました。その間、会計ビックバンと呼ばれる会計制度の大改正が行われ、IFRSの任意適用も始まり当時とは会計基準も大きく変化しました。

一方、実学としての会計進歩が進んだかと言えばその限りでは無いように思います。確かにグループ経営のための連結会計が中心となり、資産の時価評価が導入され、グローバル化を推進しやすい?IFRSの選択も可能にはなりました。しかし、それぞれの企業にとっての価値創造の道具となっているかと言うと難しいところです。

例えば、日本企業は資金を貯め込んで投資に使わないという話があります。資産効率という点では、目標ROE8.0以上を掲げた伊藤レポートが2014年に出てから、上場企業の一般的な指標となり総じて改善が進んでいます。

では個別企業の相対的競争力は向上しているのでしょうか?わかりやすいところでFortune500のリストに乗る日本企業数で見てみるとROEの改善著しい2014年からでも57社から51社に減少しています。ちなみに1995年は149社でした。f:id:runavant:20180519191507j:plain

何故か?ソフトウェア事業に関わる人間として、個人的にはインタンジブルアセットつまり、目に見えない価値である無形資産への投資が進んでいないことにかなり大きな原因があると考えています。

この20年でインタンジブルアセットというものが経済に占める割合が大きく変化しました。にもかかわらず、グローバルベースで見ると日本企業のインタンジブルアセットへの投資額は大きく遅れを取っています。ノーリスク、ノーリターン、投資無き領域に未来の果実はありません。それが競争力の低下という形で現れています。

ソフトウェアの世界ではその差は歴然です。米国ではGAFMA(注)のような超大規模の高収益企業を頂点として、ベンチャーを含む沢山の企業が「同一産業プラットフォーム」の上で活動しています。それにより、ビジネスモデルや知財・人財などのインタンジブルアセットが評価出来るベンチャー企業は、多様なEXITオプションを背景に会計上赤字であっても資金ショートを気にせず事業成長に集中することが出来ています。

とはいえ、リーマンショックを引き起こしたサブプライムの構造とも同じ文脈なので一度破綻がおこれば連鎖リスクはありますが、インタンジブルアセットへの投資を加速させることが将来の競争力を高める以上程度の差はあれど、取るべきリスクです。

以前の日本株式会社の強さもある意味同一プラットフォームに乗っかった企業群の強さであったように思います。プラットフォームもライフサイクルがあるのでかつてのモデルの優位性は消滅しました。そして、現在の日本には時代に合った強力な産業プラットフォームは存在していません。

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それはさておき、企業として出来ることは何かということになりますが、事業継続力を確保した上で可能な限りインタンジブルアセットへの投資を最大化する道を実学として確立していくことがその一つであると思います。

いくら目に見えない資産といっても、計測できないものへ投資は出来ません。現在の会計基準で計測できないのであれば実学としての計測に挑戦するしかありません。

お金は存在するだけでは実業的価値を生みません。しかし、お金を価値創造につながるインタンジブルアセットに置き換えることを加速できれば生き金となり、インタンジブルアセットから得られる未来の果実も大きくなるでしょう。もちろん異次元のリスク管理能力がセットです。

月次のルーティンとなっている取締役会での社外からの健全な進化圧により、創造的実学会計も活用して、会計基準に縛られたインタンジブルアセット投資への憂鬱を吹き飛ばさねばとの思いが強くなっています。

(注:GAFMA:Google Amazon Facebook Mcirosoft Appleの総称)