私にとってランニングやトレランだけでは無く日常の生活にも欠かせない道具の一つがGarminのウェアラブルGPSです。トレランを始める前もっぱら登山中心だった2005、6年頃からのユーザーです。
いずれ企業経営のGPSのような役割を果たすソフトウェアにして行きたいという思いを持ってDIVA社の連結会計システムの未来を構想して来たこともあり、業種は違いますがGarminという企業に共感と尊敬の念を抱き続けています。
最近あらためてGarmin社のHPを眺めているとGarmin社のあり方を示す一文が新たに表現されていました。「Engineered on the inside for life on the outside.」です。思わず「ほぉ、なるほど、いいねぇ」背景の写真と相まって、ぐぐっと心に刺さってきます。
マズローの五段階欲求説とアバントグループの経営判断の優先順位
Garminのように、企業は経営理念を始め様々な言葉やルールを持っています。アバントグループも例外ではありません。当社の経営理念的なものの一つに「五つの鉄則」というものがあります。意思決定権限を持つ人が行う日常の意思決定優先順位を整理したものです。優先順位が高い順に並べると、①信用第一、②赤字は悪、③仕組みをつくる、④人の成長を背景とした事業成長を追求する、⑤一芸を追求する。というものです。
リーマンショックの頃業績が急変する中意思決定で右往左往した事を反省し、日常の訓練のために言語化したものです。自分自身の為でした。当時は悩み抜いた結果自力で言語化したと思っていましたが、時を経て眺めていてある事に気づきました。「あれ、これって、マズロー?」
アバントグループの「五つの鉄則」とマズロー段階欲求説の各レベルが近似しているのです。①の「信用第一」とは会社の価値観の一丁目一番地です。これはマズローの言う第一段階の「生理的欲求」そのものです。人間が生命を維持するための本能と同じです。信用を失うと会社は生存出来ない。そういうものです。
次に安全欲求としての②「赤字は悪」、つまり事業の財務的規律の確保となります。最近は将来性があれば当面の会計上の赤字は容認される事も増えて来ました。しかしそれは測定期間の概念が多様化したに過ぎません。様々なオプションを使える時代ですからどんどん使うべきですが、信用を第一とした上でリスクをコントロールする事の重要性は変わりません。
残りの三つはいずれもイノベーションに関連します。③「仕組みをつくる」は内部環境のイノベーションのことで、どのように現状の自分の環境を良くするかということです。所属する組織からの信頼や愛、社会的欲求に通じます。④「事業成長を追求する」は顧客へのイノベーションであり、顧客に新たな価値を提供する事です。対価のみならず顧客からの高い評価の獲得も追求するので、尊敬への欲求に通じます。⑤の「一芸の追求」はソフトウェアビジネスの場合「デファクト目指すぞ!」という事になりますが、デファクトが目的ではありません。顧客への貢献を超えた社会イノベーションに貢献する事が目的です。「社会善」を目指す事は組織の自己実現そのものです。
アブラハム・マズロー「完全なる経営」
そんな近似に気づき、心理学者であるアブラハム・マズローを読み込んだ時期があった事を思い出しました。その一冊が「完全なる経営」です。久しぶりに本書を手に取ると裏表紙に監訳者でもある神戸大学大学院の金井壽宏先生から「自分らしくそして創造的に」という言葉と2002年という日付が添えられたサインを発見し、当時金井先生からもかなりインスピレーションを頂いていた事を思い出しました。
「完全なる経営」の初版は1965年の出版です。マズローの様々な手記を集めたもので、一通一通繋がりつつも完結する手紙を読み解くように、最近のすっきりとまとまった本に比べると賛同だけでは無く違和感の処理も要するかなり読み応えのあるものです。しかし、全ては「人のための経営」に集約されるマズローの考え方は私の中にしっかりと焼き付いていた様です。
テクノロジーとデータ中心の時代になった今でも、人間が人間を洞察した本書の存在は貴重な社会的財産であると思います。