THE RUNNING 走ること 経営すること

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「生まれてはみたけれど」、小津安二郎のリメイクが印象的だった話

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めずらしくリアルタイムで番組を探していたところ、WOWWOWの連続ドラマWが目に留まった。小津安二郎のリメイク、「生まれてはみたけれど」である。このタイトル、数十年前「ぴあ」という情報誌でよく見かけたような気がするが、見たことはない。

 

私は、小津映画のリアルタイム世代ではない。しかし、30代の後半、DVDを見つけては繰り返し見た。精神的に一番不安定だった時期だ。定番の東京物語から始まり、麦秋を経て、秋刀魚の味といったところである。人の心を丁寧に描く人間目線の映像を見て、登場人物に魅了され、心も癒された。

 

原作はサイレントである。リメイクと見比べたく探してみるとYouTubeにあった。1932年、昭和7年、1時間30分の作品である。音は音楽のみ。時々黒地に白文字で言葉が入るものだ。あるはずの音がない映像は、案外心地いい。チル・ムービーである。本当の昭和初期の東京の姿がある。

 

当時の時代背景を濃厚にもつ作品から、そのエッセンスを抽出し現代に蘇らせたリメイクは、私の知る昭和とスマホなどのツールやライフスタイルがミックスしていて面白い。パラレルワールドのようだ。

 

リメイク版の終盤、父親と子供の間に起きた一連の騒ぎのあと、父親が子供たちにこう尋ねる。

 

「お前たち、大きくなったら何になるの?」

子供たちが順に答える。

「コックさん」、「建築家」

父親が返す。

「二人とも、いい夢だなぁ」

 

原作ではこうだ。

゛お前は、大きくなったらなんになるんだ゛

次男が答える。

゛中将になるんだ゛

父親が問う。

゛どうして大将にならないんだ゛

次男が答える。

゛兄ちゃんがなるんだからいけないって言ったよ゛

 

それぞれ、時代を映し出している。リメイク版は、いわゆるクリエイティブな専門職の時代を象徴しているようでとても印象に残った。

 

トーキーの小津テイストをいかし、原作へのリスペクトを感じる。小津の映画を見ていると10倍は面白くなる作品である。