THE RUNNING 走ること 経営すること

Running is the activity of moving and managing.

今年の三冊、30年ぶりの吉村昭「戦艦武蔵」(メガネ万歳2018、)

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今年も大詰め、さて今年も印象に残った本を振り返ります。自宅やオフィスの机の上、そしてKindleの本棚に並んだ今年買った本を眺めていると以前の様に強烈に印象に残る本が少ない事に気づきました。理由はネットで情報をザッピングする事に慣れてしまい、本の読み方が変わったからです。

目が覚めてから寝るまで、常に多様な情報と接する環境にいる事で、要旨を如何に短時間で拾い上げるかと言う読み方になりました。その結果、本は印象に残りにくくなり、そこから生まれる発想も小さくなりました。

本来私は熟読派です。行間から何かを感じたらペンで書き込みながら一冊を読み上げます。時間は掛かるのですが、得られるインスピレーションは今より圧倒的に多いものでした。

と言うことで、この年末年始にもう一度読みたい、それも熟読したいと思える本を三冊、健康と仕事と人生という三分野で今回はピックアップしました。

 

健康セクション

今年は新たな書籍の購入は少なく、むしろ以前のものの再読が多かった分野です。和書よりも洋書の方に最新の情報が多いのも特徴です。健康分野は、思っている以上に日本は遅れているのかもしれません。中でも海外出張時の強烈な時差ぼけ対策や、体調管理にも応用が利いたものがこちらです。

「The Circadian Code: Lose Weight, Superchaege Your Energy, and Transform Your Health from Morning to Midnight.」

疲労回復の為には食べなきゃいかん。それは事実ですが、消化という活動はとても内臓に負担をかけ結果的に身体の回復を遅らせるので、食事のサイクルを12時間以内、理想的には8時間以内で回すと効果があるというものです。

ファスティング(断食)の体験や、海外出張時に食事の回数を極端に減らす事で時差ぼけが相対的に楽になるという経験とも合致し、絶食時間を積極的に日常で意識するようになりました。

 

仕事セクション

今年は仕事関連の本はかなり斜め読みしました。「GAFA」や「トラストファクター」といった話題のものから「公益資本主義」のような経営思想系まで幅広く読みました。直近読んだ「スタートアップバブル」は小説として面白かったです。笑えます。一方でコーポレートガバナンスや、働き方改革なので変容を迫られている会社・職場というものが、膨張する金融経済社会でどのように進化すべきなのかという問いかけに応じた本も多く読みました。そんな中からの一冊です。

「資本の世界史」

考えが混沌としてきたら歴史に戻る。これは昔から一貫した思考の整理法です。物事を点で捉えるのではなく、線や面として全体としてのトレンドを捉える。そんな方法を大切にしています。現在の資本主義も、その歴史から現在起きている事を見ると、朧気ながら進むべき方向性が見えてきます。

人類史を見ていると経済史とほぼイコールである事が分かります。どれほど優れた理念も経済の裏打ちが無ければ破綻します。そもそも、国家を統制する中心に武力があることは事実であり、武力を維持するには強力な経済が必要です。

歴史を通して経済システムの理解を進めると、「まいったなぁ。。。」と思わずため息が漏れてしまうほど自然の厳しさにも似た現実を感じてしまいます。だからこそ、人間が求める幸福と経済というリアリズムのバランスを大切にすることが重要であることを改めて思います。本書が言う「投資はイノベーションのためのものである。」ここが一番響いたポイントです。マネーを増やす事ではなく、社会を良くするためのイノベーションに繋がるのか否かを問え。刺さります。ドイツ発である点も興味深い所です。

 

人生セクション

人生セクションは上記のセクション以外全部からという事になるのですが、今年は約30年ぶりに再読した吉村昭の「戦艦武蔵」にします。

今年10月にポール・アレン氏の訃報を聞き、そのアレン氏が発見した武蔵の情報を元に作られたNHKスペシャルの「戦艦武蔵の最後」を改めて見直した事から30年近く前に読んだ吉村昭の「戦艦武蔵」をもう一度読みたくなった事が経緯です。

 ひたすらに取材から得た情報を坦々と書き上げる文章は、珠玉のドキュメンタリーの如しです。前半は国家最高機密の戦艦でありながら民間で建造した事による様々な出来事と関わった人々の思い、後半はそれを運用した人々の行動と思いが淡々と続きます。

読み進めつつ、時代背景やそれぞれの作戦の全体感などをネットで補足しながら読む事で、情報統制の厳しい時代に生きた当事者達から得られた言葉の重みが増してきました。

武蔵の最後のシーンはNHKで映像として再現したものとも符合しつつも、事実を伝えようとした筆の力は圧倒的です。

作者である吉村昭の思いは「あとがき」になるまで触れる事は出来ませんが、その一文に本作品の力の源を見つけ、約30年間心に残っていた本作品への強い印象の理由が判ったように思いました。

「私は、戦争を解明するのには、戦時中に人間達が示したエネルギーを大胆に直視することからはじめるべきだという考え方を抱いていた。そして、それらのエネルギーが大量に人命と物を浪費したことに、戦争というものの本質があるように思っていた」というものです。

ドキュメンタリー好きの人にはお勧めの一冊です。 

休みに入り真っ先に一気読みしたのですが、自然と熟読させられました。筆の力です。読後ネットで高井有一さんによる吉村昭さんの死という随想を読んで新たに吉村昭への畏怖の念を感じました。