「心の中のブラインド・スポット」(M・R・バナージ+A・G・グリーンワルド)を読んだ。
冒頭、網膜の盲点を実際に体感させることから始まる。格子状の図のある部分が黒丸で塗りつぶされているのだが、そこにうまく盲点を合わせると黒丸が格子になるのである。
私は、本を読むときに作者から新たな知識、視座やインスピレーションを得ることをどこかで期待している。よって、「イイタイコト」を文章に探しながら読む。「ああ、これだな」と一文を特定することが多い。
しかし、本書は人が自覚している自分と無意識の自分にはかなり乖離があることを様々な例やテストを通して教え込んでいくもので「一文」が見当たらない。その本のあり方そのものが「イイタイコト」になっている面白いタイプの本だった。
人間の脳が盲点を補正するという能力は、未知のことをすでに知っている知識を使って物語にする能力につながる。そして、共通の物語を信じる集団は、それ以外の集団と別のものと区別する。そんな、妄想とステレオタイプなラベリングが社会でどれほど影響力を持っているかを自覚する機会となる。
個人的には、人間の「思い込む力」は社会発展の原動力であると考えているので、そういった社会の在り方を否定するものではない。しかし、わずかな情報で盲点を埋めるような早合点をして、間違った判断をしてしまったことも数えきれない。
「森川さんは人を見る目が無い」といわれるような判断をした時は、たいてい相手に対する期待に「早合点」を起こしている。むしろ、「わからない」という前提で判断をしたほうがよい関係をつくれる。
普段の生活においては便利な機能であるが、特に「人」にかかわる判断においては盲点を性別や年齢、人種、学歴、職歴など何かで埋めてはいないか、それは頼ってもいい属性なのかを意識的に確認すべきなのだろう。それでも、ある程度時間をかけて相互に培った信頼関係に優るものはない。
そんなことを考えさせられる一冊である。