THE RUNNING 走ること 経営すること

Running is the activity of moving and managing.

エヴァンゲリオンファンの集団?ジールという会社

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先日、アバントグループのジールにてオールスタッフミーティングがありました。ジールはビジネスインテリジェンスソリューションを企業に提供するB2Bサービスカンパニーです。

 

と書き始めたのですが、あれ?これって業界関係者以外にはまったくなにやっている会社かわからないのでは?と不安になり、今回はIT業界以外の方にもなんとなくジールについてわかっていただきたいと何回かに分けて解説風に書いてみようと思います。

 

アバントグループの事業会社の一つ、ジール(ZEAL:熱意、情熱、とにかく熱い集団なのです)は会社のロゴに「BI EVANGELIST」というスローガンを入れています。

 

「BI EVANGELIST」が意味するところは直訳よろしく、ビジネスインテリジェンスのエヴァンジェリストが集まった会社だということです。

 

エヴァンジェリストという言葉は、本来キリスト教の福音伝道者を指すものですが、転じて、信じるものを世の中に広めるという活動を行う人も指すようになりました。

 

日本ではエヴァと言えば、エヴァンゲリオンですね。私もかなりはまりました。宇宙戦艦ヤマトから始まったアニメ好きもファーストガンダム以降は一段落していたはずだったのですが、とある偶然がかさなりどっぷりつかってしまいました。

 

ストーリーや世界観の面白さもさることながら、日本語明朝体を前面に押し出したNERF本部やEVAコックピットの情報系デザインに日本発BIデザインの未来を夢見ていました。

 

さて、エヴァンジェリストに戻します。記憶ベースですが、たしかこの言葉は2000年代中頃からマイクロソフトがエヴァンジェリストという職種をもうけてからIT業界に広がり、いまではだいぶ一般的になってきましたが、あくまで業界内の話なのでIT業界以外の方々「はなんのこっちゃ!」と思われるかもしれません。

 

むしろ、熱狂的なエヴァファンのことですといったほうが通用しやすいですね。(T_T)

 

閑話休題(それはさておき)、ジールは本来の意味のエヴァ、ビジネスインテリジェンスが会社をよくすると信じている人が集まり、その価値を社会に広めようとしている会社です。

 

それでは次回、ビジネスインテリジェンスの正体に迫ってみます。

サービス、サービス!

 

PS:とうとう雪ふっちゃいましたね、今日はおとなしく皇居20K走にしました。

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技術は文化の上で活きる、和魂洋才のススメ

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先日、神主の岡本彰夫さんのお話を伺う機会がありました。2013年まで春日大社の権宮司を務められた方です。春日大社は768年の創設、1200年以上にわたり人々が大切に受け継いできた有形無形の財産の一つ形です。日本文化のエッセンスの一つともいえるでしょう。

 

私は子供の頃から日本の文化が好きでした。歴史に興味持ったのは身近に縄文土器が当たり前のように転がっていたこともあったかもしれません。中学まで茨城県の古河というところで育ったのですが、自宅から歩いて行ける畑や田んぼを歩いていると、素焼きの土器の破片がごろごろ転がっていました。

古河市観光協会 こがナビ (縄文時代はこの辺まで海が入っていたようです)

 

専門家の鑑定を受けたわけではないので、今となっては、真偽のほどはわかりませんが、一つや二つという量ではなく、バケツ一杯程度は自宅の庭にあったと記憶しています。量からするとおそらく最近つくられたものがほとんどだったのかもしれません。それでも、中には縄文時代を空想するに足るだけの魅力ある破片もありました。

 

土器の破片を集めるだけでは面白くありません。どの時代のものなのか、どんな用途でどんな人々がつかっていたのか、そういったことを空想することが愉しく、日本史の本を買ってもらって調べていました。そうしているうちに、自ずと古事記や日本書紀へ、そして神話の世界から日本の歴史、文化へと次第に関心が広がり誇りをもつようになりました。

 

一方、社会人としての第一歩が欧米系の文化を持つ会社であったことから、実際の経営制度、システムの体験は米国式によるものでした。強い個人を前提とし、会社は財務的成果を最大にするための機能であるような経営です。

 

この考えは、福沢諭吉が残した「一身独立して一国独立する」という考え方にも通じると、違和感なく受け入れていました。一身独立して一国独立するという考えは今でも私にとっては行動の基本を為しています。

 

ところが、強い個人を前提とする経営というあたりが実際に経営者となってからの経験からもどうもかみ合わないというか、システムで言うと普段Windowsで使っているMS-EXCELを、MacOS使うときのような違和感を覚え続けてきました。

 

その違和感を解消しようと、改めて日本の文化というものを理解することに関心を持つようになりました。どれほど西洋的な経営技術を学ぼうとも、心は日本で生まれ育った自分にとって日本にある文化の影響を濃厚に反映したものであり、その理解なくしては技術もうまく使えないという考えです。これが岡本さんのお話を伺うことへの動機の一つでもありました。

 

会社の健康が心技体、つまり心としての経営哲学、経営技術や顧客に対する貢献価値の源としての技術、そして人・モノ・カネという事業資産である体がバランスよく機能している状態であると考えると、日本文化というものを三つ子の魂のごとくOSとして持つ会社は、その会社がたとえフランス国籍であれ、アメリカ国籍であっても和魂洋才を追求するほうが健康であることができると考えています。

 

岡本さんのお話は、日本文化の博覧会です。浄瑠璃から仏教、季節ごとの節目からしめ縄の意味、次から次へとまさに生きた人格を通したインスピレーションのシャワーを浴びているかのごとくでした。

 

そんな岡本さんのお話の中の一つに「健全なる肉体に健全なる精神が宿る」というのは西洋の考えである。東洋はその逆で「魂を健全にすれば自ずと肉体も健全になる」というお話がありました。

 

「ん?」そこからしばらく思考が混沌としました。

 

そして、「ん!」と納得しました。十数年前、少し鬱状態にあったとき、そのメンタルの回復手段を試行錯誤した結果、山によく登るようになりました。その効果はそれまで試したあらゆる手段と違い、少しずつではありましたが、確実にメンタルの回復をサポートするものでした。真因は別にあるので、その解決なくして本格的な回復は困難なことはわかっていたのですが、それでも登山というリフレッシュ方法がなければもっとひどい状態に陥っていたかもしれません。

 

そんな体験から、メンタルを整えるにはまず身体からということで腹落ちしていたのですが、それを私は「健全なる肉体に健全なる精神が宿る」であると考えていました。しかし、岡本さんのお話を伺って、私がやっていることは、身体を強くすることが目的ではなく、メンタルを整え、鍛えるための身体に負荷をかけているだけであり、「魂を健全にすれば自ずと肉体も健全になる」の文脈に沿ったものであることに気づきました。おそらく、単純に健康な身体を求めていたら、心の与える影響はより限定的だったと思います。

 

お話にはこんな件(くだり)もありました。「修験者をはじめ、修行をしている人は自分のためではなく、なにか、もしくは誰かのために修行している。」つまり、心、メンタルをよくするには、利他というスタンスがはじめの一歩である。その利他の精神を強くするためには、修行という肉体の鍛錬の欠かせないが、利他でないと修行が続かないということです。なるほど。確かに自分の記録だけを目的に走っているときは案外よい結果がでない。時にはリタイヤすらありますが、誰かのため、何かのためという自分以外への願いを持つとよりよい結果につながっているというのは体験的事実です。

 

では、洋魂というものがあるならば、それは利己であるかというとその限りではありません。私は子供の頃からカトリックの日曜学校にも通っていたので神父さんとの交流も当たり前のようにありましたが、その教えは利他そのものでした。ただ、私にとっては文化としてのキリスト教が日常になかったために、そこで感じた利他力を消化しきれず、生活の一部として取り込むことはできませんでした。

 

おそらく西洋的という「健全なる肉体」の話も、本来的にはキリスト教、なかでも現代の資本主義の基本をなすと考えられているプロテスタンティズムの文化的理解がないと間違った運用となってしまうかもしれません。むしろ、その文化の中にいない以上は本質的な理解はかなり困難と考えて理解を進めるほうがよいのかもしれません。

日経BPクラシックス プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 | マックス・ウェーバー, 中山 元 | 本 | Amazon.co.jp

 

なんとなく、東洋西洋をはじめ、資本主義や社会主義、キリスト教やイスラムの話など様々な対立概念はあくまで文化的ものであり、人間として利他が共通善であるということはゲーテのファウストあたりを読んだ頃から右脳(直感)的に個人的な仮説として結論づけていたのですが、ポール・J・ザックの「経済は競争では繁栄しない」はそれを左脳(論理)的に納得させるものでした。その講演はTEDでも人気です。

 

www.ted.com

 

ポール・ザックは、人類という種族が現在にいたるまで繁栄することができたのは、他者への共感力と利他性にあるとオキシトシンというホルモン分泌状況の調査研究を背景として主張しています。この考えにインスパイアーされるとすると、共感力、利他性という二つの要素を促すことができた文化のみが現在でも生き残っていると考えることもできます。

 

となると、西洋とか東洋ということではなく、それぞれが開発した技術を、自分たちにあった利他を促す環境としての文化をしっかり理解して活用することができた人、組織、国、地域というものがこれからの世界をリードしていくことになるのかもしれません。

 

技術は文化の上で活きる、他文化で産み出された技術を間違った使い方で使うこととならぬようにも、もっと和魂を磨きたい、岡本さんからそんなインスピレーションを頂戴いたしました。

 

 

今年もやります、富士登山競走チャレンジ!

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年始から春先にかけて、トレイルランはオフシーズンです。マラソンは比較的冬のスポーツというイメージがありますが、トレイルの場合は私の中では夏のスポーツです。山を走るというだけに、登山と同じですね。

 

もちろん登山の場合はむしろ冬山のほうが好きだという人も少なくないでしょう。以前は私もそうでした。人も動物もいない静かな山の中に入ると心身が研がれているように感じました。

 

LOWAの冬山用登山靴にPetzlの12爪アイゼンを装着し、Black-diamondのピッケルをもって登るような山は格別でした。といっても、ほとんどが日帰り登山の範囲、丹沢山系や奥多摩です。少なくとも八ヶ岳まで足を伸ばさない限りPetzlやBlack-diamondの出番はありません。冬山装備でもっとも出番が多かったのがGrivelの4爪軽アイゼンでした。

 

高尾山のような雪がほとんど積もらない低山でも、日の当たらない斜面がアイスバーン状になっていることもあり、これが意外にやっかい。アイゼンやストックがなければ思わず尻グリセード(グリセード:

kotobank.jpとなることもあります。

 

そんな冬場でも、軽アイゼンを一つ携帯していれば安心です。むしろアイスバーンを見つけるとニヤリ、AWDの車にスタッドレスタイヤを装着して雪道に入るような軽い高揚感を覚え突っ込んでいきます。そして通常の地面では得られない凍った路面に強いグリップを心地よく感じながら快適に山行を堪能できます。

 

わずか片側四つの爪だけで得られる安心感は絶大。低山であっても冬場はお守りとして常にリュックに入れていました。「登山のお守り、夏は熊鈴、冬アイゼン」といったところでしょうか。

 

余談はさておき、トレイルランの場合、冬山は防寒対策だけでも走りにくくなりますが、アイスバーンなどのトレイル状況により走ること自体が難しくなるのでオフになります。今年は暖冬のため近郊の山には雪が全く着いていないのでまだまだ走れますが、今は春先から始まるシーズンに向けオフにしています。なんといってもシーズンのクライマックスは富士登山競です。そこに向け段階的に走力をビルドアップしていきます。

 

www.fujimountainrace.jp

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富士登山競走は富士吉田市役所をスタートとして、昔ながらの富士登山道を使って山頂まで走って、歩いて、よじ登るというものです。距離は21キロとそれほど長距離ではないのですが、標高差3000メートルのひたす続く登り道を、しかも制限時間が4時間半以内で走り、歩き抜くのは私にとっては至難の業です。(冒頭の写真は、ロードから登山道に入る馬返し)

 

私は2012年の第65回から参加しているのですが、第一関門の五合目制限時間の2時間20分をクリアしたことすら一度もありません。辛うじて66回大会で2時間26分だったので今年も山頂コースへのエントリー資格がありますが、来年からは2時間25分以内とエントリー資格へのレベルがあがるので、来年以降の山頂挑戦すら難しいのが実情です。

 

それでも、今年もチャレンジします。理由を問われると「神事だ」と答えています。新年の始まりにぞれぞれの願いを祈願するために神社やお寺に参拝にいくのと同じです。

 

アバントは7月が新年度の始まりです。その月に開催される富士登山競走で、富士山という霊峰の山頂に向かいひたすら走るという行為は一年の事業の発展を願う祭りだ。私にとってはそんなおもいを持って走る特別なレースです。

 

これで私が山頂までクリアできれば格好いいのですがそうはいきません。だからこそチームで目指します。事業と一緒です。そして、こういった活動が、人々に長く引き継がれ文化と転ずる祭りのように、健康第一で成長を志向するアバントの文化の一つになるとよいなと思っています。

 

昨年は当社CFOの春日さんが山頂ゴールしました。そこに至るまでのドラマを含めその成果に心から感動しました。私自身、毎回結果が振るわず、次第に年齢のせいにして参加することだけに意義を見いだしかけていたのですが、その感動から「よし、やれるだけやってみよう」というパッションに火がつきました。これからの約7ヶ月はこの祭りに向けたトレーニングとしてのトレイルランをメインにします。

 

今年は山頂挑戦権を持つメンバーがアバントグループで6名となりました。山頂コース以外にも五合目コースへの新たなチャレンジャーも増えるとより愉しくなります。当社では走る以外にも歩いて登る富士登山も毎年やっています。走る、歩く、見る、いろんな楽しみ方のある霊峰富士山。今年もお世話になります!

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健康第一、最善のペースで前進すること

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当社は本日1月4日が仕事始めです。グループ各社、拠点は東京だけで、品川、目黒、大森、新宿、虎ノ門、名古屋は名駅、大阪は堂島と分散型のオフィス構成を取っているために、仕事始めの様式も各所各様です。品川オフィスでは、本社オフィスをこちらに移転して以来、近隣の品川神社に希望者と参詣しています。

 

品川神社までは徒歩圏なのですが、品川港南口にあるオフィスから北品川にある品川神社までは城南五山の八ツ山に集中する幹線道路と鉄道をうまく越えていかないと思いがけず時間がかかってしまう若干迷路の様相を呈し、毎回ルートを変えつつも、今ひとつスムーズにたどり着けませんでした。

 

http://www.ndl.go.jp/landmarks/details/detail405.html?sights=yatsuyama (約150年前の当地)

 

今年は、公共の交通機関でいける関東近隣の山という山を踏みならしているアバントの監査役、野城さんによる事前のルートファインディングにより、最短かつ信号も品川神社へ渡る第一京浜のみ一つという集団がばらばらにならないルート設定でスムーズ参詣することができました。

 

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普段人が歩いていることなど見たこと無いような歩道橋の階段とアンダーパス歩道の組み合わせで、八ツ山の地形を反映したブラタモリのタモリさんが喜びそうな実際に歩いてみないとわからない絶妙なコースです。

 

毎年いくつかの信号で集団が分断されてしまうことについてちょっとしまらんなぁと感じていただけに、ちょっと感動しました。

 

野城さんは私の登山の師匠です。12年以上前、私がカメラをしょって山に登り始めた頃(はじめは普通に歩いていました)、奥多摩や三ツ峠、丹沢山系などに連れて行っていただき、登り方も野城さん仕込みです。

 

野城さん流というのは、基本的に休まず登り続けるという登山方法です。そのかわり、ペースはゆっくりです。曰く、下手にペースを上げて休憩するよりよっぽど楽だ。とにかく息をあげなければいくらでも歩ける。そういうものでした。今となっては、乳酸閾値を超えないように行動し続けるという理想的な長距離歩行スタイルであることがわかりましたが、そんな知識も無い頃に心地よく歩ける方法を簡単に教えていただいたのは登山を続ける一つの要因となったと思います。

 

登山にかかわらず、続けていくことに対して、ペースというものはとても大切です。会社の継続においても、人も組織も健康であるためには、いたずらにペースを上げるのではなく、その人、その組織にとっての最善のペースというものを見つけ出し、そのペースを次第に向上させる段階的な進歩をしっかり行うということが本当に大切であると考えています。

 

健康は、心技体、それぞれがバランスよく十分である状態でしょう。気力があり、体力があり、他者に役立つ技術がある。それらが増進するようなペースを見つけることができれば、個人も組織ももっと力を発揮することができるようになります。

 

本年も、健全な成長を促すペースを重視し、人と組織の健康の増進を伴う事業成長を目指して参ります。

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至福という女神 今年一番のトレイルレース、ハセツネ

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大晦日ですね。

いよいよ新たな一年の幕が上がりますが、その前に今年一番印象に残ったトレイルレースがあまりにも愉しかったので年が明ける前にご報告。

 

そのレースは日本山岳耐久レース長谷川恒男CUP、今年10月31日から11月1日にかけて開催された通称ハセツネです。http://www.hasetsune.com/ 

(コースは上記地図上の赤いライン、下図は標高遷移です)

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テーマは完走。しかも、愉しく走りきること。そのために、7キロの減量、全コースの試走、燃焼モードの書き換え、大きくはこの三つを準備して目標を達成することができました。準備に関することは別の機会にしますが、その時の様子は映像がないので愉しさを少しでもお伝えしたいと思います。

 

 

 

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夜が明けようとしている。奥多摩の御岳山から日の出山を越え、あきる野市五日市へと続く金比羅尾根に入ったあたりだ。午前4時半、眼下には西東京の明かりが広がる。その上空に薄明の中ひときわまぶしく明けの明星が輝いている。金星のすぐ左下には赤茶けて薄暗い星がある、火星だ。少しはなれた右上にあるのは木星だろう。

 

あまりの輝きが無視できず、前のランナーと足下のトレイル、そして星空をぐるぐると繰り返し目で追っていた。その視線と同期するように頭のライトの光線もぐるぐると周囲を照らしている。

 

その時、ひとり疾走するピンク色のウインドブレーカーとシューズを纏うランナーが私を抜いていった。第三チェックポイントがある御岳山を過ぎたあたりで一度抜いたランナーだ。抜いたというよりも、後ろについて走っていたら前に行けと手を振ったので前にでた。その選手が先行するランナーの後ろを歩いていた私を颯爽と抜き返していった。ゼッケンを見ると6千番台。少なくとも60歳以上の選手だ。

 

かれこれ15時間以上走ったり歩いたりを繰り返している。全行程71.5キロ、累積標高差4582メートル。日の出山で登りはすべて終わった。残りは下り基調の緩やかなトレイルが約10キロ程度。脚はまだ十分に残っている。体調面でも特段の問題はない。「よし、ついて行こう」そう決めてペースをあげた。

 

御岳山の手前で今回のレースで卸したばかりのカーボン製のストックがぽっきりと折れるトラブルもあったが、心肺は心地よく機能している。苦しさは感じない。おそらく乳酸閾値の範囲で走れているのだろう。脚のバネも残っている。微妙な高低差は軽くジャンプしてクリアしていく。

 

周りと比べてもかなりのハイペースだ。数人程度の隊列は前に通してもらえた。中には自分のことはさておき「がんばれ」と声をかけてくれる人までいる。

 

ゴールまで3キロ程度のところで20名程度の隊列にあった。深くU字状になったシングルトラックだ、抜くことはできない。ここから先はこのままゴールかと思った矢先に、ピンクのランナーが動いた。ひらりとU字の片側に飛び上がり、忍者のごとくそのまま隊列の前まで抜けていった。

 

試走の時にはこのあたりのトレイルが泥濘んで走りにくく、サイドのトラックを使っていたことを思い出した。サイドトラックはメインのトラックとずっと平行してはなく、分岐と合流を繰り返している。ピンクのランナーが使ったトラックではチャンスを逸したが、次の分岐で飛び乗った。

 

合流で少し迷惑をかけたが、無事隊列の前に出る。ペースを上げる。少したつとピンクのランナーに追いついた。しかしトレイルでは何の問題もなかった膝が金刀比羅神社からゴールまでの舗装道に入った瞬間に悲鳴を上げた。一瞬ペースが落ちる。残り1.5キロ。「まぁ、ここまで来たら最後まで、か」と独り言。

 

痛みをこらえペースを維持して少しするとゴールが見えた。ここまでリードしてもらったピンクのランナーに感謝を込めて声をかける。最後は一緒にゴールした。長尾平から1時間44分。試走では2時間半程度かかっていた行程だ。

 

第三CPのある長尾平で小休止している時に目の前に座っていたほかの選手と簡単な会話をした。あと2時間半くらいですねと言うと、その選手は2時間切りますといって元気に笑顔で出発。少しして大会スタッフから「今4時ちょうどです、日の出前にゴールできますよ」との声援にも後押しされ坂を駆け上ってからの快走である。

 

当初より体力を温存し最後の金比羅尾根を疾走する計画だったが、これほど愉しく走れるとは想定外であった。2015年開催の山岳耐久レースハセツネカップ、この一年半主要なレースで、走力不足と準備不足が重なりリタイアが多かったこともありなんとしても完走したかった。

 

今回は事前に全コースの試走を行い、体重の1割を三ヶ月で落とすなど無理せず完走第一と準備して望んだ。

 

 三回に分けて行った試走の合計が15時間であったが、休憩や様々なトラブルを考慮して20時間の完走を目標としていた。結果として16時間44分。順位で言えば後ろから数えた方が早いが、タイムや順位を目標とせず、完走と金比羅尾根で走ることを目標としたこのレースの結果は個人的には想定以上の成果であった。

 

これまでロングトレイルで愉しい思い出はなかったが、金比羅尾根の快走により心から愉しいレースとなったことに驚きと感動を覚えた。人間の可能性を信じて挑戦することの愉しさ、新たなる克己の先の至福との出逢い、そして結果は後からついてきた。

 

街に帰る陽光あふれる電車の中、至福という女神が微笑みながら私を新たなチャレンジへと誘っていた。(つづく)

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それにしても、レベルが高いレースです。

http://www.hasetsune.com/file/2015CUP_ichiran2.pdf 

年代別で表彰されるようにはなっていますが、私にとっては50代はおろか、60代でも上位入賞は難しいでしょうね。こうなったら、持久戦、70で勝負することにします。

それではみなさん、よいお年をお迎えください。

 

他者の成長にコミットする、という人が集う会社

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先日面白法人カヤックの代表三人と忘年会をしてきました。ちょうどカヤックの上場一周年記念でもあり、お互いにこの一年の振り返りを報告しました。

 

カヤックとは5年ほどのつきあいです。発端は、とある会合で私が講師役を務めたときの話にたまたま参加されていたカヤックの代表のひとりである柳澤さんがなにかを感じたらしく、少したってから社外取締役を依頼されたことでした。

 

会合での話の内容は、一言で言うと「組織はそこに集う人のためにある」というようなテーマだったと思います。それを、上場プロセスを通して考えた企業価値や会社は誰のためにあるというような命題について、法務的な見地ではなく理念的な視点から話しをしたと記憶しています。

 

カヤックは経営理念を「つくる人を増やす」としている人中心の会社です。はじめてビジネスの話を伺ったときは、WEBデザインからソーシャルゲーム、そしてレストランなど多様な事業が行われており、「いったいなにをやりたい会社なのだろと」と戸惑いを覚えました。

 

しかも、事業的にも当社のようなB2Bオンリーではなく、B2Cハイブリッドでかつクリエイティブワークを中心としている、いわゆるクラスターが異なる世界です。「おれは役に立つのだろうか、いやそれ以上に、本業だけで手一杯の状況で他社の役員は無理だ」そんなことを考え最初はお断りしていました。

 

そんなかたくなな対応にもかかわらず、柳澤さん、久場さん、貝畑さんの代表三人の思いに応える形でお受けすることにしました。言語化は難しいのですが、三人のもつ独特の感性と「なにをしたいかよりもだれとしたいか」を大切にしているという話が心に響き、やってみようという気持になりました。

 

初めての社外役員の経験は刺激的でした。まったく異なるカルチャー、事業、そして事業そのものがわからない人間がどのように貢献するのかという模索、毎回が勝負でした。一番困ったのは、それまでディーバ社(現アバント)の社長としてやってきたままではまったく通用しないということです。

 

特に社外という存在は、代表取締役ではないので、どれほど自分がこうしたいと考えても、最終的な意志決定はゆだねなければならない。この一点においてとても苦労しました。

 

ディーバでは、あくまで事業を最初から立ち上げてきたことによる圧倒的情報量と人間関係という見えない資産を背景に持ち、しかも代表取締役です。最終的には自己責任ですべての意志決定をしなければなりません。そんな環境での意志決定になれすぎていたのです。

 

一方で、柳澤さん達の姿を見ていると、時々少し昔の自分を見ているような場面にも出会うことに気がつきました。創業者ゆえの事業に対する真摯さと、その真摯さゆえの視野狭窄というところでしょうか。「ああ、こんな場面、どこかで見たなぁ」真剣に自己主張してそのまま押し切ろうとしていたことなど、数え切れないほどありました。しかし、社内外の役員や人生の先輩方にずれを指摘いただくことで、成長を伴う軌道修正することができました。

 

そんなことを思い出しながら、社外役員の立場を堅く考えずに、僭越かもしれませんが、ここでは経営者として少し先輩としての経験から、コーチ役に徹しようと立ち位置を明確にして接するようになりました。そうすることで、私は自分の混沌から抜け出すことができました。彼らにとって私の意見が役に立ったかどうかは私にはわかりません。しかし、私自身が彼らとのつきあいを通して成長できたことは間違いありません。

 

当時明確な自覚はありませんでしたが、自分だけではできなかった成長を、「他者の成長にコミットする」ことで獲得できたという経験です。他者貢献が自分を幸せにするということは頭ではわかったような気になっていましたが、行動まで昇華できていないなかでの経験でした。

 

その後、ある程度コーチの役目を果たしたと感じた段階で立場を取締役からアドバイザーへと変えさせていただきました。コーチというものは、なあなあになってはいけない、これ以上踏み込むと相手のガバナンスにマイナスになる。上場に向けては自分たちの力量で進んだ方がよいと考えてのことでした。そして、昨年12月、上場企業として新たなステージに立たれました。

 

自分の会社のことで精一杯という、自分の成長しか考えていなかった自分を、他者の成長に役立つことで実は自分をもっと成長させることができるんだということを教えてくれたのがカヤックの三人です。

 

さて、忘年会では、そういったことがその後の様々な経験や、私にとってのコーチとの出会いによってようやく腹落ちしたという話、そして人の成長に役立つことの愉しさがわかってきたという話をしました。その中で柳澤さんから出てきた言葉が「他者の成長にコミットする」です。私は「つなぐ義務を果たす」と表現してオフィスの机の前にも貼っているのですが、今ひとつ昭和、明治?な感じでこれじゃ今ひとつ伝わらんかなぁと感じていました。聞いた瞬間にこれだ!と感じました。伝わりやすいですね。

 

「他者の成長にコミットする人が集う会社」、そんなカルチャーをもつ会社にして行きたいと思います。

 

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メガネ万歳! 今年印象に残った珠玉の三冊

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ここ数年めっきり読書量が減っていました。老眼の影響です。

私は高校時代の親友に「おまえは目だけが取り柄だな」と言われていたほど視力が良く、電車のホームでは向かいの時刻表を読んだり、夜は人工衛星を見つけたりといったことを普通にしていました。最近特に困っているのは、腕時計が読めなくなったことです。腕を伸ばしても時計盤の日付さえも読み取れないのはさすがにへこみます。

 

なので、眼鏡を使うことにしました。 

ん? 当たり前でしょ。 なぜもっと早くからそうしなかったの?

ごもっともです。しかし、眼鏡というものに全く縁がなく、いまだに遠くはよく見えるので目だけが取り柄だった私にとっては、それを常用するということにかなりの抵抗があったのです。

 

眼科のお医者さんには再三、「老眼は治らないよ、無理せず眼鏡をつかいなさい。」と言われてきました。それでも、常用はしませんでした。なぜなら、どこかで少しはよくなるだろうという期待があったからです。そんなことをやっているうちに、本を読むのがしんどくなり、結果的に読書量が圧倒的に減ってしまいました。そんなことを経て、とうとう眼鏡の常用を始めました。本がまた読めるようになりました。やっぱり活字はいい。メガネ万歳!

 

今年いくつか印象に残る本がありますので、私にとっての今年のトップスリーをご紹介します。

 

「なぜ人と組織は変われないのか」 ロバート・キーガン(著)

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エゴンゼンダー http://www.egonzehnder.com/jp/ の社長、佃秀昭さんからいただきました。社長業も長くやっているとどれほど気をつけていても独りよがりなスタイルになってしまいます。なにかガツンとやってもらえるような機会はないかと弊社社外役員のジョルジュ・ウジューさんhttp://georgesugeux.com/ からのご紹介でお会いしたことがきっかけです。

 

これまで独自の方法で内観的に自分に内在するデザイアの理解を追求してきましたが、その方法を具体的にほかの人に説明することができませんでした。ここで紹介されている方法をつかうことで比較的簡単にその価値を共有できると感じた本です。

事例も多く紹介されています。日本人的には少し掘り下げ方が甘いようにも感じますが、掘り下げ方を迷うときに参照するとヒントにはなります。

 

本書の真骨頂は「人間の知性は死ぬまで成長させることができる」と断言しているところです。それを、30年にわたる調査結果として証明し、大人の知性として三段階に定義しているところです。大人の知性として語られていることの最高レベルは東洋的には「自他一如」のようにそれほど特別なものとは感じませんが、自分の価値観を確立する第二段階を経た上で第三段階に移行できるとしている点は「なるほど」と思いました。

 

自己変容型に到る成長を、生涯を通して追求できるということは、人間は生き続ける限り成長するというテーマに勇気を与えてもらえる一冊です。

 

 

「GO WILD 野生の体を取り戻せ!」 ジョンJ・レイティ(著)、リチャード・マニング(著)

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「脳を鍛えるには運動しかない」のジョンJ・レイティの最新刊です。昨年末に出ていた本ですが、ハセツネというトレイルレースでの完走を目指していろいろと試行錯誤をしている際にヒントを求めて読んだ本です。トレランの意義を様々な角度から説いているものです。走っていれば自然とわかることですが、それを左脳から強化したい方には至極の一冊になると思います。

 

私にとって一番役立ったのは著者自身が長距離ランでかならず低血糖状態になって失速するという現象を、ラン中に使用するエネルギーを炭水化物中心ではなく、脂肪中心に転換することで克服したという点でした。そこからヒントを得、食事を見直し脂肪燃焼モードへ身体を作り替えることができました。これまでの常識だったレース前にカーボンローディングという炭水化物をたっぷりとっておくということをやめ、普段も生活に支障が出ない範囲で炭水化物を抑えることで、長距離レースで低血糖症にならないようになりました。この発見は身体面における今年最大の発見でした。

 

そもそも自分の身体の使い方がまったくわかっていないぞ。そんなことを強く感じました。ハセツネ完走を支えた一冊です。

  

「帳簿の世界史」 ジェイコブ・ソール(著)

 

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オフィスのビル内にあるくまざわ書店で見つけて即買いしました。連結会計、内部統制、IFRSなど会計に関係する制度変更の影響を強くうけて事業を行っていることも在り、歴史として会計や帳簿を理解することには単なる興味以上のものがあります。

 

歴史ですので、新たな発見があるということではないのですが、歴史としてクロニカルに、かつ帳簿という歴史の裏方から見つめ直している本はこれまでありませんでした。宇宙ものとしては、古くはカール・セーガンのコスモス、最近ではサイモン・シンのビックバン宇宙論のように歴史として科学を語る本があり、こちらも個人的には超おすすめですが、その会計版のような存在です。

 

余談ですが、中学生の頃に見たカール・セーガンの「コスモス」はビデオで録画し、バイブルのように何度も見直し、今でも脳の栄養補給にDVDやYou Tubeで眺めることがあるほど特別な存在です。

 

帳簿の世界史、あの会計史における超有名人、ルカ・パチョーリが目指した会計を広めて社会をよくしようという志。まさに、ディーバが目指す世界です。しかし、当時のみならず、現代に到るまで会計の透明化が歴史的に困難だったとうことは重たい事実として受け止めました。

 

それでも、会社は透明性を向上することで強くなると信じて今までやってきて、これからもそれを追求しようとしている私を勇気づけたのは最後の一文でした。

 

「本書でたどってきた数々の例から何か学べることがあるとすれば、会計が文化の中に組み込まれていた社会は繁栄する、ということである。」です。歴史に学び、理想の実現がどれほど困難かをしっかり理解した上で確実に実現する方法を考える。そういう学びを得られる一冊です。アバントグループメンバーのみなさん、必読書ですよ!

 

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