THE RUNNING 走ること 経営すること

Running is the activity of moving and managing.

至福という女神 今年一番のトレイルレース、ハセツネ

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大晦日ですね。

いよいよ新たな一年の幕が上がりますが、その前に今年一番印象に残ったトレイルレースがあまりにも愉しかったので年が明ける前にご報告。

 

そのレースは日本山岳耐久レース長谷川恒男CUP、今年10月31日から11月1日にかけて開催された通称ハセツネです。http://www.hasetsune.com/ 

(コースは上記地図上の赤いライン、下図は標高遷移です)

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テーマは完走。しかも、愉しく走りきること。そのために、7キロの減量、全コースの試走、燃焼モードの書き換え、大きくはこの三つを準備して目標を達成することができました。準備に関することは別の機会にしますが、その時の様子は映像がないので愉しさを少しでもお伝えしたいと思います。

 

 

 

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夜が明けようとしている。奥多摩の御岳山から日の出山を越え、あきる野市五日市へと続く金比羅尾根に入ったあたりだ。午前4時半、眼下には西東京の明かりが広がる。その上空に薄明の中ひときわまぶしく明けの明星が輝いている。金星のすぐ左下には赤茶けて薄暗い星がある、火星だ。少しはなれた右上にあるのは木星だろう。

 

あまりの輝きが無視できず、前のランナーと足下のトレイル、そして星空をぐるぐると繰り返し目で追っていた。その視線と同期するように頭のライトの光線もぐるぐると周囲を照らしている。

 

その時、ひとり疾走するピンク色のウインドブレーカーとシューズを纏うランナーが私を抜いていった。第三チェックポイントがある御岳山を過ぎたあたりで一度抜いたランナーだ。抜いたというよりも、後ろについて走っていたら前に行けと手を振ったので前にでた。その選手が先行するランナーの後ろを歩いていた私を颯爽と抜き返していった。ゼッケンを見ると6千番台。少なくとも60歳以上の選手だ。

 

かれこれ15時間以上走ったり歩いたりを繰り返している。全行程71.5キロ、累積標高差4582メートル。日の出山で登りはすべて終わった。残りは下り基調の緩やかなトレイルが約10キロ程度。脚はまだ十分に残っている。体調面でも特段の問題はない。「よし、ついて行こう」そう決めてペースをあげた。

 

御岳山の手前で今回のレースで卸したばかりのカーボン製のストックがぽっきりと折れるトラブルもあったが、心肺は心地よく機能している。苦しさは感じない。おそらく乳酸閾値の範囲で走れているのだろう。脚のバネも残っている。微妙な高低差は軽くジャンプしてクリアしていく。

 

周りと比べてもかなりのハイペースだ。数人程度の隊列は前に通してもらえた。中には自分のことはさておき「がんばれ」と声をかけてくれる人までいる。

 

ゴールまで3キロ程度のところで20名程度の隊列にあった。深くU字状になったシングルトラックだ、抜くことはできない。ここから先はこのままゴールかと思った矢先に、ピンクのランナーが動いた。ひらりとU字の片側に飛び上がり、忍者のごとくそのまま隊列の前まで抜けていった。

 

試走の時にはこのあたりのトレイルが泥濘んで走りにくく、サイドのトラックを使っていたことを思い出した。サイドトラックはメインのトラックとずっと平行してはなく、分岐と合流を繰り返している。ピンクのランナーが使ったトラックではチャンスを逸したが、次の分岐で飛び乗った。

 

合流で少し迷惑をかけたが、無事隊列の前に出る。ペースを上げる。少したつとピンクのランナーに追いついた。しかしトレイルでは何の問題もなかった膝が金刀比羅神社からゴールまでの舗装道に入った瞬間に悲鳴を上げた。一瞬ペースが落ちる。残り1.5キロ。「まぁ、ここまで来たら最後まで、か」と独り言。

 

痛みをこらえペースを維持して少しするとゴールが見えた。ここまでリードしてもらったピンクのランナーに感謝を込めて声をかける。最後は一緒にゴールした。長尾平から1時間44分。試走では2時間半程度かかっていた行程だ。

 

第三CPのある長尾平で小休止している時に目の前に座っていたほかの選手と簡単な会話をした。あと2時間半くらいですねと言うと、その選手は2時間切りますといって元気に笑顔で出発。少しして大会スタッフから「今4時ちょうどです、日の出前にゴールできますよ」との声援にも後押しされ坂を駆け上ってからの快走である。

 

当初より体力を温存し最後の金比羅尾根を疾走する計画だったが、これほど愉しく走れるとは想定外であった。2015年開催の山岳耐久レースハセツネカップ、この一年半主要なレースで、走力不足と準備不足が重なりリタイアが多かったこともありなんとしても完走したかった。

 

今回は事前に全コースの試走を行い、体重の1割を三ヶ月で落とすなど無理せず完走第一と準備して望んだ。

 

 三回に分けて行った試走の合計が15時間であったが、休憩や様々なトラブルを考慮して20時間の完走を目標としていた。結果として16時間44分。順位で言えば後ろから数えた方が早いが、タイムや順位を目標とせず、完走と金比羅尾根で走ることを目標としたこのレースの結果は個人的には想定以上の成果であった。

 

これまでロングトレイルで愉しい思い出はなかったが、金比羅尾根の快走により心から愉しいレースとなったことに驚きと感動を覚えた。人間の可能性を信じて挑戦することの愉しさ、新たなる克己の先の至福との出逢い、そして結果は後からついてきた。

 

街に帰る陽光あふれる電車の中、至福という女神が微笑みながら私を新たなチャレンジへと誘っていた。(つづく)

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それにしても、レベルが高いレースです。

http://www.hasetsune.com/file/2015CUP_ichiran2.pdf 

年代別で表彰されるようにはなっていますが、私にとっては50代はおろか、60代でも上位入賞は難しいでしょうね。こうなったら、持久戦、70で勝負することにします。

それではみなさん、よいお年をお迎えください。