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連結会計、コーポレートガバナンスのための会計①

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先日、とある取材がありました。その取材は「連結会計とは」との問いから始まりました。そこでは、会計ビックバンとよばれた2000年以降、企業会計では当たり前となった連結会計を、今また改めて触れる時期であることを意識しながら話をしました。

 「コーポレートガバナンス」という話題が企業経営において大きく取り上げられるようになったことが背景です。2015年6月よりコーポレートガバナンスコードがすべての上場企業に適用されました。社会の経済において重要な要素である会社の発展のために、経営者が暴走することも怠けることも許しませんよという当たり前とも言える暗黙の了解をあえて明確にしたものです。

 現在のガバナンスの論点は社外役員などからの牽制機能に注目が集まっていますが、それは人間の健康管理で言えば定期的にお医者さんに健康状態を見てもらうようなものです。その場の見立てやアドバイスも重要ですが、健康は日常の自己管理でつくられるものですからそれだけでは不十分です。

 連結会計は会社が健康であるための自己管理ツールです。そして、そのツールは開示という情報を外部公開することによって本来の価値を発揮することができるという性格を持っています。

 このコーポレートガバナンスのための会計である連結会計について、実務ではなく大まかな概要をこれから数回にわけて触れてみたいと思います。初回は、生まれた背景についてです。

 

◇ 米国生まれの連結会計

現在の会計の基本をなす、人類最高の発明の一つとドイツの文豪ゲーテに言わしめた複式簿記の歴史は古く12世紀頃には存在していたようです。複式簿記は商売を営む上で必要なすべての活動をなにかとなにかの取引として記録するものです。

 すでに実学として存在していた複式簿記の考え方を社会の健全な発展に役立てようとイタリアの数学者ルカ・パチョーリが「スムマ」という著書にして出版したことから、複式簿記といえばパチョーリというイメージがあります。スムマはパチョーリが思ったほどは売れず、重要性は認められたものの、実社会においてはだれもが使いたくなるような技術では無かったそうです。

 複式簿記によって記録された取引は、財務諸表と呼ばれる複数種類の集計表に一定の期間ごとで集計されます。パチョーリの生きた大航海時代であれば、船団の航海ごとに成果を分け合うために集計すればすみましたが、継続的に事業活動を行う株式会社はそうはいきません。目的や強制力はそれぞれですが多くの会社は年や三ヶ月や月ごとに財務諸表を作成しています。

 これらの財務諸表を結合する連結財務諸表は19世紀後半に米国の鉄道会社によって報告されるようになりました。

 米国全土の鉄道が広がるに際してたくさんの鉄道会社が生まれました。鉄道はお互いがつながり同じサービスが提供されるほうが便利です。また、鉄道を敷くには大きな資本が必要ですから、ばらばらに経営したり資金調達するよりも、一緒にやったほうがよいわけです。

 ところが、当時は現在以上に州の権限が強かったので、それぞれのローカル法に準拠してつくられた会社を法的に吸収合併して一つの会社とするよりも、個々の会社をそのまま持ち株会社にぶらさげる形で資金調達と経営の統一を図るほうが合理的だったことからグループ会社型の経営統合が進みました。一度できあがった会社を一つに統合するのは簡単なことではありません。

 そこで、資金調達のための投資家に対する説明をしやすくするために、連結会計という異なる会社を結合する会計表現が生まれました。その後、20世紀に入り米国では本格的に連結会計が普及しますが、初期段階の普及の背景には情報を開示する企業側にとってメリットが大きかったことが背景にあります。社会的にも、為政者自体が今よりも暴走と怠惰を容認していた時代です。

 とはいえ、連結会計とは開示のために生まれた会計であるということが原点です。その意義は、開示という行為がもたらす意味がインターネット時代に入り大きく変わったことによって大きく変容することになります。(続く)