今年は紙の本に回帰しました。
今読みたい一冊を鞄に入れ、移動時間などでパラパラとめくりながら思いにふけったり、本に書き込みしたり。やはり愉しみとしての「読書」は紙に限ります。
紙で読んだ書籍の中で今年印象に残った三冊をご紹介します。
1.「神は詳細に宿る」養老孟司
養老先生の最新刊。
最初に読んだ養老本が「唯脳論」、独特の養老節に魅了され、その時以来の養老ファンです。
本書はこの「唯脳論」から30年の節目で、養老節のエッセンスを語り直したものです。思考に強い影響を受けた一人である事を再認識しました。
「生きそびれないようにすること」の一節、台湾で昆虫採集をして大はしゃぎしている中老年先生達の話では思わずニヤリ。ウルマンの青春の詩とも通じる精神の若さと人生の愉しみ方に大賛同です。
「神は細部(詳細)に宿る」と言う有名な言葉好きにはたまりません。
心のメンテナンスに効いた一冊です。
2.「大読書日記」鹿島茂
新聞の書評を切っ掛けに読み始めた本です。
中身は「書評」!!
何事にもその筋のプロという存在がいますが、まさに本のプロ。いいえ、尊敬を込めてオタクという表現の方がシックリくる程の迫力です。
日常では決して触れる事の無い世界の一端に次々と触れることが出来ます。ネットサーフィンならぬ、ブックサーフィンです。本書で触れている書籍を何冊も購入してしまいましたがほぼ積読、本棚の肥やしになっています。
今年の5月から読み始め、いまだ読了していませんが寝る前の愉しみになりました。
3.「金融に未来はあるか」ジョン・ケイ
今年も身近なフロンティアとして、ファイナンス世界についてリアル、バーチャルともに探検を進めました。間接的な探索手段の一つである本の中で最も読み応えがあったものが「金融に未来はあるか」です。
原題の「Other People's Money」という金融における基本姿勢を軸としつつも、様々な考察がちりばめられており、パラグラフ単位で思考に刺激を突っ込んで来ます。
逆選抜とモラルハザードの節にある「イングランドにおける変死や事故死のリスクは13世紀からほぼ一定である。」という話は、現代社会における安全対策の根本思想に一石を投じます。
共同体組織(ゲマインシャフト)と機能性組織(ゲゼルシャフト)、それぞれから生じた異なるファイナンス哲学の話は、金融業界だけでなくこれからの会社のあり方を考えるヒントになります。
つながり過ぎて複雑になりすぎた社会は、さらなる機能の細分化と短期的思考のベースとなる流動性の向上を加速します。それだけに、すべての機能性組織は共同体組織としての意識、つまり「時間軸」を持った社会最適化のための道徳の徹底が欠かせません。
「資本効率の向上」の一点突破で経済の活性化を目指す日本のコーポレートガバナンス改革、資本効率の重要性自体に異論はないのですが、一点突破故の危うさを感じています。その危うさの背景と今後の方向性を考える一助となりました。
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本はかさばる、持ち運びだけでは無く保存にも場所を取る。それでも、じっくり紙の本を読む事は愉しい。結局、この「愉しい」というスタイルが全てなのかもしれません。