先月末に株主総会を終え、欧州の機関投資家向けのIRツアーに出かけていた。
「世界に通用するソフトウエア会社をつくる」というビジョンを掲げた自社の成長戦略を磨くために、数年前から海外の機関投資家回りをするようになった。株主だけでなく、潜在的投資家も対象にしている。
はじめは、海外の機関投資家の考え方を学ぼうという程度の関心であったが、回を重ねるにつれ、その対話が事業戦略を磨く優良な機会となることに気づいた。
もちろん相手は様々である。いわゆるファンドマネージャーが中心だが、成功したファンドのファウンダーと対話できることもある。それぞれ、異なる投資方針、評価尺度を持っていて面白い。
投資哲学とこちらの経営哲学が一致すると、長期の価値創造について目が覚めるような対話になることもある。
今回の訪欧は当社としては大規模な成長投資方針を含む新たな中期戦略を発表したばかりということもあり、その意義はいつも以上に高かった。中でも、今回多くの投資家がM&Aに対する具体的な説明を求めてきたことは印象深い。
日本企業のM&A力をかなり慎重にみているようだ。相応の経営力が必要で、本業以外にかなりの経営的負担のかかる活動だからだろう。もちろん、ロジカルにリスクや回収可能性が説明できれば問題ない。
M&Aも長期的な事業成長の手段の一つであるが、売上や利益といった財務的成果を出すだけでなく、長期にわたる成長発展をイメージして必要なアクションを行うことは経験的にもなかなか簡単ではない。
しかし、多様な機関投資家、とりわけ長期投資の投資家との対話は、社内では看過してしまうような部分も言語化され、戦略実行のリアリティが高まる。つまり、長期成長戦略のための行動とアウトプットが明確になる。
異なる考え方、視点を持つ人が創造的に対話することで、シュンペーターの言う「新結合」、イノベーション力を高めようというダイバーシティの意義にも通じるが、しっかりとビジョンをもった経営戦略を実行しようと思うほど、多様な投資家との対話は役に立つ。