THE RUNNING 走ること 経営すること

Running is the activity of moving and managing.

寄付講義と人間力

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先週、一橋大学で講義を行った。「企業価値経営論」という事で、長期に企業価値の向上に集中して経営すると自ずと社会の公器としての会社になる。そんなテーマで、自分自身がどのようにそのような考え方に至ったのかという経営者としての認知のアップデート体験や、経営におけるファイナンス視点の生かし方などの話をしている。

昨年に続き、二年目の講義であるが、現時点の問題意識や学生の反応を見ながら内容を修正しているので半分以上は新作になっている。中でも、AIの社会インパクトへの危機感というか問題意識がより強くなっていることもあり、これからの変化に対してより重要になるテーマを探索している。

自分の学生時代は、インターネットがWindows95で大衆化するよりも10年ほど前だった。その時すでにパソコン通信は一部のマニアで流行っていたが、それに触れるだけでもコンピューターネットワークを中心としたコミュニケーションにより従来とは異なる人間社会の在り方を想像するには十分の体験機会だった。

それから40年、世界がつながり、グローバル化した現代の社会の姿は、当時空想したものとまったく違ったというものではない。体験した時期が多感な年代であったこともあろうが、大きな潮流の変化が始まることに期待感こそあれ、不安はなかった。

しかし、今、目の当たりにしているAIのインパクトは正直読めない。毎日使っているし、行動においてもそれなりのインパクトを受けているにも関わらずである。社会的にはグローバル化というか、パックス・アメリカーナの終焉とAIの社会浸透のタイミングが一緒に来ているあたりに、一見無関係に見えつつも、新たな社会秩序にとって重要な影響を与えるのではないかとモヤモヤしている。

そんなこともあり、あえてAIと関連付けせずとも、現在の学生世代がどのようなことに関心を持ち、悩みを抱えているのかを知ることは、今起きている変化の潮流を知る機会としてとても貴重である。教える形をとってはいるが、実際には自分の学びの機会でもあるということだ。

個人的には、生きるとは「行動」することであると考えている。その行動は、人間力という、行動を導き出す情動と価値観や考え方によって生み出され、その行動の道具としての技術力の両輪によって行動の価値や品質がつくられる。そして、自らの意志によって生み出す行動には、しんどくとも、自由という喜びが宿る。

従来の道具は、行動のための技術を補完するものだった。しかし、AIは道具であるだけではなく、人間力という意味づけする力まで代替する力を持ち始めている。人間力を磨くのは簡単ではない。しかし、それをAIに頼ると、私たちはAIの道具になりかねない。その是非を含めて、これからの未来を生きる若者と考えていきたい。そんなことを考えながらの講義だった。

実際の講義は、毎回、用意したものの半分も伝えられず、素人甚だしい内容になっているが、生きたインスピレーションだけでも伝わればうれしいものである。

MAKE TOMORROW!